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★ 準備書面(36) −ICRP勧告の意味,低線量被ばくの健康影響等− 
 第6 結論 
平成28年5月24日

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第6 結論

 ICRPですら科学的根拠をもってLNTモデルを採用し,1mSvの被ばくを容認できないものと勧告しているし,科学的知見によってLNTモデルや低線量被ばくのリスクは実証されている。
 年間20mSvの帰還基準の問題点は,ICRP勧告によっても,被災者以外の市民にとって1mSvは容認できないものである,ということである。そこで,被災者だけが20mSvを容認させることについて,科学的観点から検討する。
 年間20mSvは,放射線作業従事者の5年間平均被ばく線量限度である。放射線作業従事者は,放射線管理区域で作業を行う。崎山意見書でも述べられているとおり,放射線管理区域には許可無く入ることが許されず,18未満の子どもの立ち入りも禁じられている。飲食,喫煙,就寝も禁止され,区域外に出るときには身体の汚染を調べ,もし汚染が見つかれば完全に除染しなければ区域外には出られない。汚染の高い所ではつなぎのタイベックを着用し,全面マスク,2重,3重の手袋,靴下及び靴カバーをつけて作業をするように決められている。年間20mSvを基準に帰還を推奨するということは,このような場所に妊婦,乳幼児を含む住民が住むことを推奨するようなものである。
 第7準備書面の18ページにも「100ミリシーベルトをこえる高線量被ばくでは,思春期までの子どもは,成人よりも放射線による発がんリスクが高い。」とある。しかし,表3に示したごとく100mSvではなく,10mSv以下,1mSvの増加ですら統計的な有意性をもって発がんリスクの増加が証明されたのである。
 先に15カ国核施設労働者のがん死率の研究を指摘した。この集団はほとんどが19才以上の健康な男性であるから,もし放射線感受性の高い乳幼児,女性がこの線量を被ばくすれば,がん死率は少なくとも数倍になる可能性がある。
 放射線管理区域で職業的に働く労働者ですら,実質的に受けた累積線量は20mSvに達しない労働者が大部分である。これは年間被ばく線量ではなく,被ばく線量の総計(累積線量)である。
 乳幼児を含む住民の多くが,最初の5年間で現在日本において追跡調査されている原発労働者の平均累積線量よりも高い被ばくを受ける危険性があると予想される。
 崎山意見書における,20mSvの帰還基準で住民を避難解除区域に帰還させることは放射線管理区域あるいはそれ以上汚染されているところに住民を住まわせることになるという指摘(崎山意見書22ページ)に対して,被告国は避難基準と電離放射線傷害防止規則とは基準の趣旨,性格が異なるので「両者を単純に比較することは誤りである」という(第7準備書面・19?20ページ)。しかし,法律を作った趣旨や性格にかかわらず,科学的には,被ばくを受ける人間の健康は放射線の線量によって決まるのであり,法律の趣旨や性格には左右されないことは自明である。被告の反論は,放射線の健康影響という科学的観点からは全く意味をなさない。

 以上

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