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★ 準備書面(36) −ICRP勧告の意味,低線量被ばくの健康影響等− 
 第4 福島県民健康調査と甲状腺がんの多発 
平成28年5月24日

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第4 福島県民健康調査と甲状腺がんの多発
 1 先行調査の結果
 2 スクリーニング効果との指摘について
 3 過剰診断との指摘について
 4 疫学的な分析
 5 甲状腺がん多発と原発事故との因果関係を否定する論拠



第4 福島県民健康調査と甲状腺がんの多発


 1 先行調査の結果

 2011年から2013年までに行われた先行検査は,対象者367,685名中300,476人が受診した。その内113人が悪性ないし悪性の疑いと診断され,内99人が手術を受け,良性結節:1人をのぞき甲状腺がんと確定診断された(乳頭がん;95人,低分化がん:3人)。
 小児甲状腺がんの発症率は,通常では多くとも年間100万人に3人と言われているため,有病率と発症率の違いを考慮しても明らかな多発である。そのため,検討委員会の「中間とりまとめ」でも,「わが国の地域がん登録で把握されている甲状腺がんの罹患統計などから推定される有病数に比べて数十倍のオーダーで多い甲状腺がんが発見されている」と報告されている(甲D共146号証)。

 2 スクリーニング効果との指摘について

 スクリーニング検査とは,1951年米国慢性疾患審議会によれば,見かけ上健康な人を,ある疾病の可能性がない人とその疾病の可能性がある人に振り分けることである。スクリーニング効果とは何の症状も示さない健康な人を多数検査することによって,検査しなければ一生わからなかったであろう疾病を見つけてしまうことである。
 先行検査によって明らかとなった多発について,検討委員会は,当初,スクリーニング効果であると説明した。すなわち感度の良い超音波機器を使って症状のない多数の人を検査したためにがんが前倒しで見つかったためであるとしたのである。
 もしこれが多発ではなくスクリーニング効果であれば,1巡目で発見され尽くしているため(刈り取り効果),2巡目の本格検査では発見数は多くならないはずである。しかし,2014年から始まった2巡目の検査(本格検査)について2016年2月15日に開かれた検討会において発表された結果(2015年12月31日現在)では,236,595人が検査を受け,51人が悪性または悪性疑いと診断され16人が手術を受け,すべて乳頭がんがんと確定した。2巡目の本格検査において,このような多数の発見例があることは,スクリーニング効果では説明できないのであり,県民健康調査による発見例が,放射線被ばくに起因する多発であることを示唆している。


 3 過剰診断との指摘について

 検討委員会の甲状腺検査評価部会では.,平成27年3月に公表した「甲状腺検査に関する中間とりまとめ」において,先行検査の結果示された多発についで’被ばくによる過剰発生”の可能性を完全には否定するものではないが,”過剰診断”の可能性が高いとの見解を示した(甲D共147号証)。
 過剰診断とは,死亡原因とはならず治療の必要性がないようながんを検診によって見つけてしまったために治療したことで,受診者にとっては不利益につながることを意味する。しかし,2015年8月31日の検討委員会では,手術をした症例中,リンパ節転移が96例中72例で74%,甲状腺外への浸潤が96例中38例で40%であることが発表された。実際には,侵襲性の高い治療の必要ながんが多くを占めていることが示されている。

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 4 疫学的な分析

  (1)津田教授による指摘

 疫学者の津田敏秀氏は県民健康調査のデータを分析し,国際環境疫学会の発行するEpidemiology(疫学)に,放射線被ばくと関連性のある甲状腺がんの多発であると発表した(同論文は英語で発表されているが,その内容については同じ津田氏による甲D共130号証の雑誌記事に分かりやすく説明されている。)。この多発に対して国際環境疫学会会長は日本政府に対して書簡を送り,福島県民健康調査の甲状腺検査について,「福島県民における甲状腺がんのリスク増加は,想定よりはるかに大きい」と懸念を表明し,信頼に足るリスクの推定を行うよう要請したが,政府はこれに末だ答えていない。
 また,被告国は「放射線被ばくによって小児甲状腺がんの発症率が増加しているとは言えない」と断言しており,その根拠としてUNSCEAR2013年報告の予測を挙げている(第7準備書面・29ページ)。しかし,県民健康調査の結果は予想ではなく事実であり,現に甲状腺がんとなった子どもたちが存在するのである。

  (2)3県調査の有病率

 国は多発と考えられない根拠として,青森,山梨,長崎の3県における調査で判明した甲状腺がんの有病率が県民健康調査と同等だとしている。しかし,福島では受診者が約30万人に対し,3県ではわずか4,365人に過ぎず,甲状腺がんも1例が発見されたに過ぎないのであって,データの信用性には差がある。また,3県調査の調査対象には福島では含まれている0から2歳児が含まれていない。これでは対照群として適切とは言いがたい。


 5 甲状腺がん多発と原発事故との因果関係を否定する論拠

  (1)甲状腺がん潜伏期

 被告国は,「放射線の影響とは考えにくい」ことの根拠として,「甲状腺がんの潜伏期は最短でも4年から5年と考えられる」というWGの見解を述べている(第7準備書面・31ページ)。
 しかし,がんの潜伏期に関しては一般的に小児がんの方が潜伏期は短い。
 また県民健康調査では,本格検査で手術後確定診断された16例のがんの平均腫瘍径は9.9±4.6mm(5.3−30.1mm)であった。本格検査で悪性または悪性疑いとされた51人のほとんどを占める内47人は先行検査で異常なしと診断されていた。このことに照らすと,僅か3年足らずでがんが最大30.1mmにまで増殖した可能性が高く,増殖速度はかなり早いと考えられる。これほどに早く増殖するものであれば,先行検査で発見されたがんにつき,潜伏期が短すぎるという理由で放射線被ばく起因説を否定することなどできない。

  (2)チェルノブイリ原発事故との比較

 被告国は,被ばく線量がチェルノブイリ事故に較べて低いので発がんリスクは非常に低いとのWGの見解についても述べている(第7準備書面・31ページ)。
 しかし,被ばく線量が低いとの想定は科学的根拠に乏しい。
 甲状腺がんの原因になる主な放射性物質はヨウ素131であり,その半減期は僅か8日であるから,ヨウ素放出後80日くらい経てば検出不能になる。この期間が過ぎて計測しても意味はない。そのため,初期被ばく線量のデータが極めて重要となる。
 ところが,初期被ばく線量のデータは,僅か1,080人分しかないのである。また,被ばく量の測定に適した場所ではなかったことは衣服についた線量を引くと被ばく線量がマイナスになってしまう例もあったことから明らかである。しかも計測したのはヨウ素が放出されてから10日から14日も経った後であり,信頼性については,以下に引用するように専門家会議での議論においてすら,線量計測が不十分であり,不確定であると言われている。

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