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★ 準備書面(26) ―結果回避措置について― 
 第4 復旧シナリオと対策 
平成28年1月28日

目 次(←クリックすると準備書面(26)の目次に戻ります)

第4 復旧シナリオと対策
 1 ベントせず半日程度で復旧するシナリオ(1)
 2 ベントせず1〜2日程度で復旧するシナリオ(2)
 3 ベントする復旧シナリオ
 4 まとめ



第4 復旧シナリオと対策


 1 ベントせず半日程度で復旧するシナリオ(1)

  (1)直流電源等の復旧

 初期の炉心冷却のために、原子炉隔離時冷却系(RCIC)、高圧注水系(HPCI)に可搬式の直流バッテリーを接続し、手動で起動する(甲A16-3)。このため、十分な容量の個数の250Vバッテリーを、RCIC室、HPCI室、中央制御室等に用意する必要がある。
 非常用復水器(IC)の稼働には、交流駆動弁用の可搬式480V交流発電機、又は、直流電源で開閉するための改造が必要である(甲A16-11)。

  (2)交流電源、残留熱除去系の復旧

 RCIC等を作動させた後、その冷却機能が喪失する半日以内に、SHC,RHRを稼働させることが最短、最良のケースである。
 RHR等の稼働には、炉水を熱交換機で冷却した後、炉内に水を戻す「RHRループ」及び、その熱交換機に海水を循環させる「RHRSループ」並びに、ポンプを作動させるための「高圧交流電源」が機能しなくてはならない。
 したがって、事故回避のためには、海水ポンプの損傷に備え、予備のRHRSループモーターを準備しておくことが必要である。RHRSループモーターの代わりに水中ポンプを用意しておくことでも対応が可能であり、この場合には移動式発電機による稼働が可能である(甲A16-6,7:1号機は、原子炉停止時冷却系ポンプ、補器冷却系海水ポンプの予備)。また、交流電源喪失に備え、高圧電源車の用意が必要である。


 2 ベントせず1〜2日程度で復旧するシナリオ(2)

 半日以内に最終排熱系が復旧できない場合でも、交流電源を復旧(高圧電源車)させてPCVスプレー(格納容器スプレイ)を使用すれば、1〜2日間冷却状態を維持することができる(甲A16-8)。
 また、SR弁(逃し安全弁)を開いて炉心を減圧後、炉心スプレーにより直接炉心注水を行うことによっても1〜2日間冷却状態を維持することができる(甲A16-7、8、9、10)。SR弁(逃し安全弁)の操作には、直流電源(120Vバッテリー)及び可搬式コンプレッサーが必要である(甲A2-137,179)。また、炉心スプレーの使用には交流電源が必要である(甲A16-9)。
 この間にSHC,RHRを復旧することができれば、ベントせずに冷温停止に至る。

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 3 ベントする復旧シナリオ

  (1)格納容器ベントとは

 格納容器内が高温高圧状態になった場合、格納容器破損の危険が生ずる。これを防ぐためのアクシデントマネジメント策として、格納容器ベント[5](耐圧強化ベント)がある。格納容器ベントにより、格納容器圧力を低下させ格納容器の破損を防ぐことができる。また、格納容器ベントにより圧力が低下すれば、原子炉が隔離された状態でも注水し冷却する事が可能になる(甲A16-9)。
 格納容器ベントには、直流電源及び可搬式エアコンプレッサーが必要である(甲A2-442)。

[5] 原子炉格納容器ベントには、S/C側の配管から排気筒へつながるラインを通じて原子炉格納容器内のガスを排出するS/Cベントと、D/W側の配管から排気筒へつながるラインを通じて原子炉格納容器内のガスを排出するD/Wベントの二つがある(甲A2-140)。最終報告書が指摘する経過をたどれば、燃料は破損しないためベントによる放射能拡散は余りないと期待できる(甲A16-9)。

  (2)交流電源が復帰する場合の復旧シナリオ(3)

 初期の冷却に成功しても事故後約半日の時点で、崩壊熱により格納容器力が高まるため、格納容器ベントにより圧力を下げて、炉心スプレー、復水補給水系の注水により冷却を維持する。この場合、水源があるかぎり長期間に渡り冷却を維持することが可能であり、SHC,RHRの復旧に1週間以上の余裕が見込まれる。炉心スプレーの使用には交流電源が必要である(甲A16-9)。

  (3)交流電源が早急に復旧しない場合の復旧シナリオ(4)

 (2)の場合に、交流電源が復旧せず炉心スプレーが使用できない場合にも、格納容器ベントを行い、格納容器を減圧した後、電源を要しないディーゼル駆動消火ポンプ(D/DFP)、又は、消防車により代替注水し、(水源があるかぎり)長期間に渡り冷却状態を維持する事が可能である。この場合もSHC,RHRの復旧に1週間ほどの余裕が見込まれる(甲A16-10)。

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 4 まとめ

 交流電源(AC電源)及び直流電源(DC電源)の喪失の後、冷却機能を回復させるには、まず原子炉停止後2時間以内に、直流電源を復旧し、1号機の非常用復水器(IC)、2〜5号機の原子炉隔離時冷却系(RCIC)又は高圧注水系(HPCI)を手動で起動させることが必要である。この作業をおこなうために必要な対策は十分な容量と個数の125Vバッテリーと250Vバッテリー(DC)を用意しておくことである。また、RCICとHPCIの水密化も必要である。
 RCIC(又はIC)若しくはHPCIのどちらかが稼働できた場合、少なくとも10時間〜18時間程度は冷却が可能である。その後、水中ポンプまたはRHRSループの予備モーター等を用意しておけば、最終排熱系(SHC,RHR)が復旧できる。海水ポンプが高圧交流電源(AC)を要することから、高圧電源車を用意しておく必要がある。
 最終排熱系の復旧に時間がかかる場合には、PCVスプレーで格納容器内の圧力を凝縮して圧力抑制プールから水を循環させて冷却する方法がある。この場合、交流電源(AC)の復旧と、循環させる水源が必要である。PCVスプレーによる凝縮での冷却期間は1日程度であり、1〜2日の間に最終排熱系の回復を要する。
 早期の最終排熱系の回復が困難な場合には、格納容器ベントにより減圧する。ベントができれば、水源がある限り冷却を継続することができる。この場合、炉心スプレー(要交流電源)の水源、又は消防車、ディーゼル駆動消火ポンプ(D/DFP)が必要である。

[甲A16-12を加筆]【図省略】

[甲A16-7に加筆]【図省略】


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