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★ 準備書面(23)
 ―IAEA「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」等に基づく補論― 
 第1 津波に関するIAEA報告書の内容 
平成27年9月25日

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第1 津波に関するIAEA報告書の内容
 1 「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」とは
 2 「IAEA報告書」は被告国らの津波高予見可能性を肯定した
 3 小括



第1 津波に関するIAEA報告書の内容


 1 「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」とは

 2015(平成27)年9月14日、IAEA(国際原子力機関)は、ウィーンにて年次総会を開催した。当該総会には、福島第一原発事故の原因及び被害の分析の最終報告書「福島第一原子力発電所事故事務局長報告書」(甲A15、以下、「IAEA報告書」という)が提出された。当該報告書は、42の加盟国及び国際機関等の約180名の専門家の国際協力により作成されたものである(甲A15−2)。


 2 「IAEA報告書」は被告国らの津波高予見可能性を肯定した

  (1)「IAEA報告書」は被告国らの津波高予見可能性を肯定した

 「IAEA報告書」は、「2.2.1節 外部事象に対する発電所の脆弱性」にて、被告らが、本件の津波高を予見できたことを明確に指摘している。以下、「IAEA報告書」より該当部分を引用する。

  (2)IAEA報告書が根拠とした事実1 ―巨大地震の発生―

 IAEA報告書は、日本と地質構造環境に類似した太平洋プレートの他の区域においてM9クラスの地震が発生していた点を指摘し、日本において構造地質学の基準を十分に考慮していないこと、またそうした基準を使用する再評価を実施しなかった点を問題視した(甲A15―44)。

(引用)
 「事故当時に有効であったIAEA安全基準は、原子力発電所の建設前に、地震や津波などのサイト特有の外部ハザード[1]を特定する必要があること、及びサイトの包括的かつ全般的な特性評価の一環として、これらのハザードが原子力発電所に及ぼす影響を評価する必要があることを求めていた[26][2]。原子力発電所の供用期間にわたって十分な安全裕度を提供するために、適正な設計基準を設定することが要求された[27][3]。これらの安全裕度は、外部事象の評価に付随する高レベルの不確実性に対処できるように十分に大きいことが必要である。プラントの供用期間中に新たな情報・知見が得られた結果としての変更の必要性を特定するため、サイト関連ハザードも定期的に再評価する必要がある[26]。
 1960年代及び1970年代には、地震及びこれに伴う(例えば津波)ハザードを評価する方法を適用する際に、歴史上の記録を利用することが共通の国際慣行であった。この共通の慣行には、サイト地域で歴史上記録された最大の地震強度又はマグニチュードを増加させ、また、このような事象がサイトから最も近い距離で起こると想定することによって、安全裕度を増すことが含まれた[28]。これは、地震強度又はマグニチュードの観測の不確かさを勘案し、また、強固なハザード評価のためには典型的には先史時代のでータを含む必要がある中で、比較的短期の観測では潜在的最大値が得られないかもしれないという事実を補完するために行われた。しかし、福島第一原子力発電所の1号機と2号機の設計に対する地震ハザード評価は、主として地域の歴史上の地震でータに基づいて実施され、上記の安全裕度の増大は含まれなかった。後発ユニットの建設許可を取得するプロせずでは、歴史上の地震情報と地形学的断層規模を併用する新たな手法が適用された[16, 29]。
 「内陸」断層に関する情報は、公的な情報源及び事業者が実施した個別の調査から取得され、あり得る地震のマグニチュードを予測する分析では保守的なパラメータが想定された。日本海溝については、(i)十分な地質構造ベースでの正当性及び(ii)世界的な類似性の使用なしに、主として観察された歴史上のでータに基づいて、マグニチュード8クラスの地震が最大の事象と当初推定された。
 マグニチュードの大きい大地震(M9)は、太平洋の「環太平洋火山帯」に沿って起きており、例えば、1960年にチリで、1964年にアラスカで発生したが、これは福島第一原子力発電所1号機の建設許可が与えられる少し前であった。これらの地震は、日本の地震学者の間で、太平洋プレートの他の区域で地震が発生した地質構造環境に類似した環境にある日本の海岸付近で、このような事象が起こり得るというコンセンサスを導くことにはならなかった。」
[1] 日本原子力学会の定義によれば、地震、津波などの自然現象(自然ハザード)、及び、人間の行為(人為ハザード)が原因となって発生する原子力発電所の外部で発生する原子力発電所の安全性に脅威を与える可能性のある事象(ハザード)を指す。
[2] [26] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Site Evaluation for Nuclear Installations, IAEA Safety Standards Series No. NS-R-3, IAEA, Vienna (2003).
[3] [27] INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Safety of Nuclear Power Plants: Design, IAEA Safety Standards Series No. NS-R-1, IAEA, Vienna (2000). (This publication is superseded by SSR-2/1 (2012)).


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  (3)IAEA報告書が根拠とした事実2 −津波シミュレーション−

 IAEA報告書は、被告東電が提出した資料に基づき、2007(平成19)年から2009(平成21)年にかけて、被告東電が、地震調査研究推進本部の長期評価(甲B9)に基づき日本海溝沿い福島県沖にマグニチュード8.3の地震が生ずると想定した結果を「津波評価技術」に適用し、約15mの津波遡上波につながる可能性があり主要建屋が浸水すると分析していたと認定した。また、その事実は、「東京電力、原子力安全・保安院及び国内のその他の組織」に共有されたが、「東京電力は、これらの津波高さの予想値増加に対応した暫定的補償ママ措置を取らず、原子力安全・保安院も東京電力にこれらの結果に迅速に対処するよう求めなかった」と結論づけている。
 「日本土木学会の手法を取り入れた再評価に加え、事故以前に東京電力によって津波洪水レベルの試算が行われた。これらの試算[30][4]の1つでは、地震調査研究推進本部が提案した、最新の情報を使用し、様々なシナリオを検討した発生源モデルを適用した[30,33][5]。このアプローチでは、福島県の沿岸沖合の日本海溝が津波を引き起こす潜在性を検討した。これは、地質構造沈み込み帯のこの部分に関する津波の歴史上の記録のみに頼ったものではなかった。
 2007〜2009年の間に適用された新しいアプローチは、福島県の沿岸沖合でマグニチュード8.3の地震が起こることを想定した。このような地震は、福島第一原子力発電所において(2011年3月11日の実際の津波高さと同様の)約15mの津波遡上波につながる可能性があり、その場合主要建屋は浸水することとなる。この新たな分析に基づき、東京電力、原子力安全・保安院及び国内のその他の組織は、更なる調査研究が必要であると考えた。東京電力とその他の電力会社は、日本土木学会に津波発生源モでルの適切性を再検討するよう要請した。これらの取組は、2011年3月には進行中であった。
 東京電力は、これらの津波高さの予想値増加に対応した暫定的補償措置を取らず、原子力安全・保安院も東京電力にこれらの結果に迅速に対処するよう求めなかった[30]。」(甲A15-46,47頁)」
[4] 【30】 SAKAI, T., TOKYO ELECTRIC POWER COMPANY, “Past tsunami assessments and tsunami on 11 March 2011", paper presented at 5th Meeting of Working Group 2, Vienna, 2014.
[5]【33】 HEADQUARTERS FOR EARTHQUAKE RESEARCH PROMOTION, On the Long-term Evaluation of Seismic Activity off Eastern Japan between the Sanriku Coast and the Boso Peninsula (2002) (in Japanese), 「三陸沖から房総沖にかけての地震活動の長期評価について」(甲B9)


  (4) IAEA報告書が根拠とした事実3 −教訓とすべき先例−

 福島第一原発の重大事故は、非常用発電機や配電盤の水没による全電源喪失が大きな原因となったが、報告書は水没対策を迫る教訓事例が少なくとも4回あったと指摘した。
 教訓のうち2回は被告東電の事例である。まず、第1は、1991(平成3)年には福島第一原発1号機で海水配管に亀裂が生じ、毎時20トンの海水が漏れ非常用発電機などが浸水した事例である。次に、2007(平成19)年の新潟県中越沖地震において柏崎刈羽原発第1号機の地下の消火配管が破損し、原子炉建屋地下に水が流れ込んだ事例が指摘された。
 第3に指摘されたのは、1999(平成11)年、嵐による河川増水でフランスのルブレイエ原発2基が浸水した事例、最後に、2004(平成16)年のスマトラ沖地震にて、津波がインド南部のマドラス原発を襲い、海水ポンプが水没した事例である。
 IAEA報告書は、上記の各事例が、原発の重要施設である建屋や海水ポンプを津波から守る対策を講ずべき教訓となるはずだったものかかわらず、保安院や電力会社が抜本的な対策を講じようとしなかった点を指摘した。これは、溢水による事故の予見の契機とすべき事情を具体的に指摘したことにほかならない。

(引用)
先立つ12年間の日本及び他の地域での原子力発電所の運転経験は、洪水から重大な影響を受ける可能性を示していた。関連する運転経験には、1999年にフランスのブレイエ原子力発電所の2基の原子炉で洪水を引き起こした高潮、インドのマドラス原子力発電所の海水ポンプが浸水した2004年のインド洋津波、及び2007年の日本の新潟中越沖地震が含まれる。後者は、東京電力の柏崎刈羽原子力発電所に影響を及ぼし、地下の外部消火配管の破損により、1号機の原子炉建屋の浸水を引き起こした[35-38][6]。」(甲A15-47頁)
[6] 【35】GOVERNMENT OF INDIA, Actions Taken for Indian NPPs Subsequent to Fukushima Nuclear Accident. National Report to the Convention on Nuclear Safety (2012), http://www.aerb.gov.in/AERBPortal/pages/English/t/documents/CNS2012.pdf
 【36】INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Extreme External Events in the Design and Assessment of Nuclear Power Plants, IAEA-TECDOC-1341, IAEA, Vienna (2003).
 【37】INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, International Reporting System for Operating Experience (2014) (unpublished).
 【38】INTERNATIONAL ATOMIC ENERGY AGENCY, Follow-up IAEA Mission in Relation to the Findings and Lessons Learned from the 16 July 2007 Earthquake at Kashiwazaki-Kariwa NPP, IAEA, Vienna (2009).



 3 小括

 IAEA報告書は、津波に関し(1)巨大地震の発生可能性、(2)2007〜2009年の間に適用された津波評価方法(長期評価の知見を「津波評価技術」に適用すること)、及び、(3)4例の前兆事象(平成3年の福島第一原発1号機溢水事例、平成19年の柏崎刈羽原発の事例、平成11年の仏ルブレイエ原発の溢水事例、平成16年の印度マドラス原発事故)を挙げて、被告らの津波対策の懈怠を指摘した。

【東京新聞平成27年6月12日記事[7]より】【図省略】

[7] http://www.tokyo-np.co.jp/article/feature/nucerror/list/CK2015061202000214.html#pagetop 2015/9/19::(TOKYO Web)

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