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★ 準備書面(22) ―事故後の事情に基づく避難と継続の相当性― 
 第4 解消されない放射能汚染 
平成27年9月25日

目 次(←クリックすると原告準備書面(22)の目次に戻ります)

第4 解消されない放射能汚染
 1 はじめに
 2 土壌汚染
 3 海洋汚染
 4 食品汚染
 5 小括



第4 解消されない放射能汚染


 1 はじめに

 環境中に放出された放射性物質は,主に大気中に拡散した後,降雨などによって土壌や湖沼,海洋等に降下し,その後,循環を繰り返しながら徐々に堆積する。いったん蓄積した放射性物質は,概して減衰が遅く,汚染が長期化すると考えられている(甲A1・国会事故調・440頁)。環境中の放射性物質は,環境放射線への直接の曝露や汚染食品の経口摂取を通じて,住民の健康に長期的な影響を与えることが問題となる(甲A1・国会事故調・441頁)。
 実際にも,本件事故によって拡散した放射性物質は,土壌汚染,海洋汚染,さらには食品汚染をもたらした。現在もなお,除染作業によっても土壌汚染は解消されておらず,汚染水の海洋流出に至っては有効な解決方策すら立てられていない。食品汚染による出荷制限も続いており,放射線汚染は解消されないままである。

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 2 土壌汚染

  (1) セシウム134・セシウム137の土壌濃度

 本件事故により拡散した放射性物質は,地表に降下して土重に沈着し,土壌汚染をもたらした。
 「放射線量等分布マップ拡大サイト」[1]における「放射線量等分布マップ」[2]によれば,2014年〔平成26年〕12月1日時点でも,セシウム134ないしセシウム137は広範な地域で検出されている。福島市,福島県耶麻郡北塩原村,同郡猪苗代町,福島県西白河郡西郷村,栃木県那須郡那須町,栃木県大田原市,茨城県日立市など,福島第一原発から80キロメートルを超える地域でも,30キロベクレル/平方メートルを超えるセシウム134ないしセシウム137検出されている(放射線量等分布マップ−線量測定マップ−。甲D共111がセシウム134,甲D共112がセシウム137の土壌濃度を示している。)。
 このうち,セシウム137については,半減期が30年であり(甲A1・国会事故調・414頁欄外注釈206。セシウム134の半減期は,2.1年),2014年〔平成26年〕12月1日時点におけるセシウム137の土壌濃度は,2011〔平成23年〕年6月14日時点の土壌濃度(甲D共113・放射線量等分布マップ−線量測定マップ−)から大きな変化が見られないままである。

[1] 「放射線量等分布マップ拡大サイト」は,「平成23年度科学技術戦略推進費「放射性物質による環境影響への対策基盤の確立」『放射性物質の分布状況等に関する調査研究』,文部科学省が委託した平成23年度放射能測定調査委託事業「福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の第二次分布状況等に関する調査研究」及び平成23年度放射能測定調査委託事業「福島第一原子力発電所事故に伴う放射性物質の長期的影響把握手法の確立」において,東京電力(株)福島第一原子力発電所から放出された放射性物質の影響を詳細に確認できるようにすることを目的として,同研究で作成した放射線量等分布マップ及び,走行サーベイマップ並びに,文部科学省が実施していた航空機モニタリング等の結果をもとに,作成したものです。」と説明されている(甲D共110・放射線量等分布マップ 同意文)。
[2] 「放射線量等分布マップ」は,「地表面に沈着した放射性物質による住民の健康への影響及び環境への影響を将来にわたり継続的に確認するため,東京電力(株)福島第一原子力発電所から80km圏内は2km×2kmメッシュに1箇所の地点で,80km〜100km圏内及びこの圏外の福島県は10km×10kmメッシュに1箇所の地点で,空間線量率を測定するとともに,各箇所で最大5地点の表層5cmの土壌を採取し,核種分析した結果をマップ上に示したものです。」と説明されている(甲D共110・放射線量等分布マップ 同意文)。

  (2) 除染の限界

 土壌汚染対策として,各地で除染作業が実施されている。
 しかし,除染については,表土の剥ぎ取りを行うことが困難な農地や森林では除染による線量低減には限界がある(甲A1・国会事故調・442頁),山林に囲まれた地域の住宅では,空間線量に占める山林からの放射線による影響が大きいため,除染を実施しても線量低減効果は限定的である(同444頁),放射性物質は,風雨により,森林の奥から住宅の方向に対して流れ込む可能性が否定できない(同445頁)といった限界が指摘されている。
 すなわち,除染作業は実施できる場所に限定があり,また,いったん除染作業を実施したとしても,放射性物質が風雨等により移動するため再度汚染される可能性があるなどの限界がある。

  (3) 仮置き場からの放射性廃棄物流出

 また,除染作業によって生じた放射性廃棄物は,中間貯蔵施設がないため,現在も,各地で仮置き場が設置されたままとなっている。
 2015年(平成27年)9月11日には,福島県相馬郡飯舘村の仮置き場に保管されていた放射性廃棄物入りの袋が,豪雨のために川に流出した。流出した袋の数は395袋にのぼるとみられており,そのうち151袋は,破損により中身の放射性廃棄物が無くなった状態で発見された(甲D共114。NHK NEWSweb)。この事実が示すように,仮置き場からの放射性物質拡散のリスクもある。

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 3 海洋汚染

  (1) 沿岸海底の汚染

 本準備書面第3・2で述べたとおり汚染水は現在も流出を続けており,当然ながら,海洋汚染も続いており,海底堆積物からも継続的に放射性物質が検出されている。
 海洋汚染は,東京湾の荒川河口ではセシウム137の濃度が増加傾向であるなど(甲D共115・原発事故環境汚染・117頁),拡散も続いている。

  (2) 海産物への影響

 海洋汚染によって,上述のとおり海産物の出荷制限が現在も続いている他,漁業の操業自粛等も実施されている。平成27年9月14日時点における出荷制限,操業自粛等の状況は,次の図のとおりである(甲D共116・東日本太平洋における水産物の出荷制限操業自粛等の状況について)【図省略】。

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 4 食品汚染

 中長期的に住民の内部被ばくを防止又は低減するために最も重要なことは,いかに放射性物質により汚染された食品の摂取を防ぐか,ということである(甲A1・国会事故調・416頁)。上記の土壌汚染,海洋汚染によってもたらされた農作物や海産物などの食品汚染は,今も解消されていない。
 次の表は,平成27年9月11日時点における出荷制限等の状況である(甲D共117。原子力災害対策特別措置法に基づく食品に関する出荷制限等:平成27年9月11日時点)【表省略】。
 出荷制限に関しては,出荷制限の基準となる線量の妥当性,測定方法の適正さ,産地偽装の可能性など様々な問題があり得るところではあるが,これらの点をさておくとしても,現在もなお,広範な食品汚染が続いていることを示している。


 5 小括

 以上のとおり,土壌汚染,海洋汚染,食品汚染は現在も続いており,放射能汚染は解消されていない。

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