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★ 準備書面(22) ―事故後の事情に基づく避難と継続の相当性―
 第3 本件事故発生後も続く放射線拡散とさらなる事故の危険 
平成27年9月25日

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第3 本件事故発生後も続く放射線拡散とさらなる事故の危険
 1 今なお続く放射性物質の発生及び拡散
 2 さらなる事故の危険や避けられない放射性物質の飛散
 3 収束の目途の立たない汚染水問題と情報隠匿



第3 本件事故発生後も続く放射線拡散とさらなる事故の危険


 1 今なお続く放射性物質の発生及び拡散

 言うまでもなく,本件事故によって発生した放射性物質は,現在も福島第一原発の原子炉建屋内部を含む敷地内に存在している。また,被告らにおいて原子炉内部で何が起きているか把握できていないことからして,今もなお新たに放射性物質が発生している可能性は十分にある。
 そして,これらの放射性物質が今後も拡散する危険性があることを,以下で述べる。


 2 さらなる事故の危険や避けられない放射性物質の飛散

  (1) さらなる事故の危険

 本件事故発生直後,被告東京電力が原子炉の冷却に苦慮し,水素爆発を招いた経過は,訴状で述べたとおりである。
 大規模な地震や津波などの自然災害が発生すれば,原子炉冷却システムが停止し,あるいは原子炉格納容器内に残っている燃料棒や,格納容器の底に貯留している核燃料が露出し,再臨界に至る危険がある。
 また,廃炉の過程で,人為的ミスにより同様の過酷事故を引き起こす危険性もある。実際,2012年9月22日には,作業員が3号機のガレキ撤去作業中に燃料プール内に鉄骨を落下させるミスがあった(甲D共86。共同通信2012年9月22日)。また,2013年3月18日には小動物が仮設電源盤内に侵入したことが原因で(甲D共87。毎日新聞2013年3月20日),2014年2月と7月には作業員が地中の電源ケーブルを誤って切断したことが原因で(甲D共88。東京新聞2014年7月19日),それぞれ停電が発生した。
 幸いにして,大事には至らなかったが,地震や津波等の自然災害,廃炉作業に伴う人為的ミスにより,原子炉冷却システムに異常が発生した場合,本件事故発生直後と同様の危機的事態を引き起こす危険性は十分に有り得るところなのである。


  (2) 廃炉作業に伴う放射性物質の飛散

 被告東京電力は,2011年10月,放射性物質の飛散を抑制する目的で,原子炉建屋カバーを設置したが,廃炉へ向けて燃料プール内の燃料棒を取り出すには,原子炉建屋内に散乱するガレキの撤去を行わなければならず,その作業のために建屋カバーを解体する必要がある。当然ながら,建屋カバーを解体すれば,原子炉建屋内の放射性物質は外部に飛散する。また,ガレキの撤去作業に際しても同様に放射性物質が飛散する。実際,2013年8月には3号機のガレキ撤去中に放射性物質が飛散している(甲D共89。共同通信2013年9月12日)。
 廃炉作業に伴う放射性物質の飛散は不可避であり,被ばくを避けるために避難を継続することには社会的相当性が認められる。

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 3 収束の目途の立たない汚染水問題と情報隠匿

  (1) 増え続け,漏えいし続ける汚染水

  ア 汚染水問題
 福島第一原発のタービン建屋やトレンチ(作業用トンネル),ピット(作業坑),サブドレン(排水管)には,もともと津波由来の海水が低濃度汚染水として大量に滞留していたが,メルトダウンした核燃料を冷やすため,1号機ないし3号機までの圧力容器に,毎日合計500トン以上の水が注水された。注水された水は,核燃料に触れて大量の放射性物質を含んだ高濃度汚染水となり,穴の空いた圧力容器から格納容器へ,破損している格納容器から原子炉建屋を経由してタービン建屋へと漏出した。ここへ,山側から地下水が流れ込むため,汚染水は日々増え続け,更には海洋へ流出している。
 現在,被告らは凍土壁等により地下水の流入及び海洋流出を阻止しようと試みているが,まだ実現していない。また,増え続ける原子炉建屋内の汚染水をくみ上げて放射性物質と水とを分離し,冷却用に再利用しているが,放射性物質(水と分離できないトリチウム等)を含む廃水が廃水貯留用タンクに増える一方であり,その処理方法については目途が立っていない。

  イ 相次ぐ汚染水の漏えい
 2011年3月22日,福島第一原発1号機ないし4号機の放水口南側にて採取した海水から,炉規法の定める濃度限度の126.7倍に上る放射性ヨウ素が検出された(甲D共90。朝日新聞2011年3月22日)。放射性ヨウ素の濃度は,同月26日には炉規法の定める濃度限度の1250倍(甲D共91。朝日新聞2011年3月26日),同月30日には3355倍にもなった(甲D共92。朝日新聞2011年3月30日)。そして,同年4月2日,福島第一原発2号機の取水口付近のピット横のコンクリートの割れ目から高濃度汚染水(1000mSv/h以上)が海へ流出していたことが発覚した(甲D共93。共同通信2011年4月3日)。
 被告東京電力は,同年6月27日に循環注水冷却システムを導入し(甲D共94。朝日新聞2011年6月27日),同年12月16日には「事故収束宣言」なるものを発表したが,そのわずか2日後の同月18日,福島第一原発4号機の南側にある集中廃棄物処理施設の2つの建屋の間のトレンチで,新たに汚染水が約230トン(甲D共95。共同通信2011年12月18日)発見された。かかる事態を受け,被告東京電力は,事故後9か月が経過した段階になって初めて,全体的な汚染水の状況を把握するための調査を開始した。すると,その調査で,3号機及び4号機の間のトレンチに低濃度汚染水300トン(放射性セシウムが49〜69Bq/立方センチメートル)(甲D共96。共同通信2012年1月12日)を,2号機から3号機のタービン建屋に繋がるピットに低濃度汚染水1100トン(21〜45μSv/h)を発見した(甲D共97。共同通信2012年1月19日)。
 更に,循環注水冷却システムからも汚染水の漏えいが相次いだ。すなわち,2012年1月9日,システムの一部装置が壊れて処理水11リットルが漏出したほか(甲D共98。共同通信2012年1月9日),同月10日には,廃水貯留用タンクの下部から汚染水が漏出した(甲D共99。時事通信2012年1月10日)。また,同月29日には注水ポンプや汚染水処理装置から約600リットルの処理水が漏出した(甲D共100。共同通信2012年1月29日)。同年3月26日には,廃水貯留用タンクにつながるホースから約120トン廃水が漏れ,うち約80リットルが海に流れ込んだ(甲D共101。共同通信2012年3月27日)。同年8月14日には,汚染水を地下から汲み上げている配管が破損して4.2トンの汚染水が漏出したほか(甲D共102。朝日新聞2012年8月14日),同月17日にも汚染水の淡水化装置の配管から200リットルの汚染水が漏出した(甲D共103。共同通信2012年8月17日)。
 同年8月20日,被告東京電力は,廃水貯留用タンクから300トンの廃水が漏出したことを発表した(甲D共104。NHK2012年8月20日)。更に,2013年9月には,台風18号の影響でタンクエリアの堰から水があふれたため,同月16日,被告東京電力は7つのエリアの堰内の汚染水1130トンを排水弁から放出した(甲D共105。東京新聞2013年9月17日)。漏えい,放出した汚染水の大部分は地中に染みこんだ模様で,周辺土壌ごと回収しなければならない状況である。

  (2) 被告東京電力による情報隠匿

 2013年3月15日,相次ぐ汚染水の漏出状況を受け,東京海洋大学のグループが,港湾内への汚染水流出の可能性を示唆する報告書を発表した。被告東電は,海洋流出の可能性を否定していたが,同年6月には1号機の取水口付近の海水のトリチウム濃度が1100Bq/リットルにまで上昇し,同年7月3日には2300Bq/リットルとなり,「(海に流出していないと)言い切るようなことはしない」と曖昧な表現を用いるようになった。
 同年7月10日,原子力規制委員会が「高濃度の汚染水が地中に漏れ,海洋への拡散が強く疑われる」との見解を発表した(甲D共106。東京新聞2013年7月10日)。被告東京電力は当初,「コメントを出せるだけのデータの蓄積がない」と述べていたが,同月18日,観測孔の水位を測定していたことを公表した。当然,同月19日の記者会見では,記者から具体的な水位データを公表するよう求められたが,被告東京電力は,合理的な理由なく拒否した。
 被告東京電力が一転して汚染水の海洋流出を認めたのは,同月22日,参議院議員選挙の翌日であった。被告東京電力が公表した水位のデータによれば,地下水の水位が潮位の変化と連動して変化していたことから,地下水と海水はつながっており,そこから汚染水の流出が続いていたことが明らかになった。なお,被告東京電力の尾野本部長代理は,「(水位の計測は)毎回ではない」と説明していたが,3つの観測孔では2013年1月31日以降,水位が連続データとして自動的に記録されていた(以上について甲D共107。福島第一原発事故記者会見3第2「参院選まで隠されたデータ」)。
 被告東京電力は,明らかに虚偽の事実を述べ,国民を欺いていたのである。

  (3) 現在も汚染水流出を防ぐ手段が確立されていないこと

  ア 被告国の基本方針
 被告国は,2013年9月3日になってようやく,「東京電力(株)福島第一原子力発電所における汚染水問題に関する基本方針」(甲D共108)を策定し,発表した。その中で,次の3点の対策があげられている。

「対策(1):汚染源を「取り除く」
  •  汚染源である,原子炉建屋地下や建屋海側のトレンチ内に滞留する高濃度汚染水については,早急にモニタリングを強化し,トレンチ内の汚染水を除去するとともに,今後,原子炉建屋地下に滞留する汚染水の量を削減させていく。併せて,多核種除去設備により,高濃度汚染水の浄化を進め,汚染源のリスクを低減させていくとともに,処理容量や処理効率の向上を図る。また,原子炉建屋等の地下に滞留する汚染水の除去という最終目標を一日も早く実現する。
対策(2):汚染源に水を「近づけない」
  •  汚染源である高濃度汚染水に新たな地下水が混ざって汚染水が増えるという事態を避けるため,原子炉建屋山側(地下水の上流)から,汚染される前に地下水をくみ上げるとともに,原子炉建屋の周りを囲む凍土方式の陸側遮水壁を設置するなど,建屋付近に流入する地下水の量を可能な限り抑制する対策を進める。
対策(3):汚染水を「漏らさない」
  •  汚染水が海洋,特に外洋に漏えいしないようにするため,建屋海側の汚染エリア付近の護岸に水を通さない壁を設置するとともに,原発の港湾内に水を通さない遮水壁を設置する。また,汚染水は当面タンクで貯蔵・管理することとし,タンクの管理体制強化やパトロールの強化等の対策を講じる。」

  イ 解決の目途は立っていない
 上記基本方針は,「今後,原子炉建屋地下に滞留する汚染水の量を削減させていく。」,「また,原子炉建屋等の地下に滞留する汚染水の除去という最終目標を一日も早く実現する。」,「汚染水は当面タンクで貯蔵・管理することとし,タンクの管理体制強化やパトロールの強化等の対策を講じる。」と記載するなど,抜本的最終的な解決を先送りしたものであり,しかも,早期に実現することとなった項目についてさえも解決しなければならない困難な課題があり,実現の見通しは立っていない。特に,地下水の原子炉建屋内への流入及び海洋流出を防ぐ凍土壁は2015年4月から18ヶ所58本で試験凍結を始めるも、同年7月22日時点で7ヶ所しか凍結していないようであり、(甲D共109「科学2015年9月号」),現在も完成の目途が立っていない。

  (4) 小括

 このように,被告東電は未だに汚染水の状況を正確に把握できておらず,現在も汚染水の漏えい,海洋流出が続いている。また,上記基本方針も実現は極めて困難で,膨大な時間と費用を要するのであって,事故収束からは程遠い状況にある。廃炉作業中のトラブルや自然災害等によって,再び過酷事故に至るリスクもある。保有する情報の開示に消極的な被告東京電力が行う事故収束作業の状況についての発表に対し,原告らは懐疑的にならざるをえない。

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