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★ 原告準備書面(21) ―中間指針追補および同第二次追補の位置づけについて―
 第4 区域外避難者に対する中間指針追補等の定める賠償基準が内容的にも極めて不十分であること 
2015〔平成27〕年9月18日

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第4 区域外避難者に対する中間指針追補等の定める賠償基準が内容的にも極めて不十分であること
 1 中間指針追補等の定めた区域外避難者等の慰謝料の金額
 2 そもそも中間指針等は損害の範囲・上限を画するものではないこと
 3 中間指針追補が対象とした損害項目が極めて限定されていること
 4 中間指針追補が定めた慰謝料の額(賠償額)が,限定された損害項目に対してもあまりにも低廉であること
 5 中間指針追補等が低廉な慰謝料額を定めた際の原賠審における議論の問題



第4 区域外避難者に対する中間指針追補等の定める賠償基準が内容的にも極めて不十分であること


 1 中間指針追補等の定めた区域外避難者等の慰謝料の金額

  (1) 中間指針追補

 自主的避難等対象区域に生活の本拠としての住居があった区域外避難者および滞在者について,中間指針追補が定めた慰謝料の金額は,子どもと妊婦に対しては,事故発生から2011〔平成23〕年末までの損害として1人40万円,その他の区域外避難者等に対しては,事故発生当初の損害として,1人8万円とされている。

  (2) 中間指針第二次追補

 中間指針第二次追補では,2012〔平成24〕年1月以降に関し,少なくとも子ども及び妊婦の場合は,放射線への感受性が高い可能性があることが一般に認識されていると考えられること等から,第一次追補の内容はそのまま適用しないが,個別の事例又は類型によって,これらの者が放射線被ばくへの相当程度の恐怖や不安を抱き,また,その危険を回避するために自主的避難を行うような心理が,平均的・一般的な人を基準としつつ,合理性を有していると認められる場合には賠償の対象とすること,として具体的な金額は示されなかった。

  (3) 金額的に不十分であること

 このように,区域外避難者等につき,中間指針追補が示した賠償の水準は,3以下で述べるように,同人らが実際に被った被害内容に照らして著しく低額で極めて不十分なものにとどまっている。
 中間指針追補が示した水準が極めて低いことは,後述するような,被害者誰にでも共通に認められるであろう最低限の損害項目について,被告東京電力も異論なく早期の賠償に応ずる程度の指針を示すという中間指針等の性質によるものである。被告東京電力は,このような賠償の水準をもって「合理的かつ相当なもの」と主張する(被告東京電力共通準備書面(1)・65頁等)が,その位置づけや評価を誤ったものと言わざるを得ない。

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 2 そもそも中間指針等は損害の範囲・上限を画するものではないこと

 原告準備書面20でも述べたように,中間指針では,「中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である」とされ,「東京電力株式会社に対しては,中間指針で明記された損害についてはもちろん,明記されなかった原子力損害も含め,多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えた上で,迅速,公平かつ適正な賠償を行うことを期待する」とされている。
 すなわち,中間指針自体が,中間指針等において賠償の対象とする損害項目以外にも,損害賠償の対象となる項目があること,また,中間指針等が示した損害項目に対する賠償額についても,それが必ずしも十分な額ではないことを自認した上で,被告東京電力に対して,中間指針で賠償の対象とは明記されなかった損害についても,早急に賠償するべきと明言しているのである。
 また,このような中間指針を活用して行われている原子力損害賠償紛争解決センターにおける和解仲介手続においては,和解仲介を行うパネルが,中間指針等において具体的に示されている項目以外の項目について,また金額的にも中間指針等が示した賠償額を上回る金額を,本件事故と因果関係のある損害と認めて和解案を呈示し,被告東京電力自身も,中間指針等が具体的に示す項目外の項目について,また金額的にも中間指針等が示した賠償額を上回る金額を,本件事故と因果関係のある損害と認めて,賠償に応じているのである。
 従って,中間指針追補及び同第二次追補が示す賠償に関する指針も,訴訟において賠償額の上限を画する基準とはなり得ない。被告東京電力が,本訴訟において,中間指針等の示す賠償指針に固執して,その合理性を主張し,中間指針等に明記されていない項目及び額を超える損害の賠償を拒む姿勢を継続していることは強く非難されなければならない。

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 3 中間指針追補が対象とした損害項目が極めて限定されていること

 また,中間指針追補がかかる金額の考慮対象とした損害項目が極めて限定されていることにも注意が必要である。

  (1) 区域外避難者について

 中間指針追補は,区域外避難者について,(1)自主的避難によって生じた生活費の増加費用,(2)自主的避難により正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたため生じた精神的苦痛,(3)避難及び帰宅に要した移動費用を損害項目として考慮している。
 このうち,(1),(2)は,避難指示等対象者に関する慰謝料の内容が極めて限定的であることを指摘した原告準備書面20・20頁以下で述べた,日常生活阻害慰謝料および生活費増加分と同趣旨のものであり(「著しく阻害」と「相当程度阻害」の差がある),同様の批判が当てはまる。
 すなわち,健康影響への懸念や避難の長期化,故郷喪失・変容等は評価されておらず,そもそも平穏生活権や人格発達権等の人格的利益の侵害が全く評価されていない点で,極めて不十分である。
 さらには,(3)の移動費用のような実費までも具体的に加算することなく考慮済みとしてしまっているのである。

  (2) 滞在者について

 中間指針追補は,区域外の滞在者については,(1)放射線被曝への恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的損害,(2)放射線被曝への恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用,を損害項目として考慮している。
ここでも,故郷喪失・変容等は評価されておらず,なによりも,平穏生活権や人格発達権等の人格的利益の侵害が全く評価されていないことが不当であることは,上記と同様である。

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 4 中間指針追補が定めた慰謝料の額(賠償額)が,限定された損害項目に対してもあまりにも低廉であること

  (1) 区域外避難者について

 上記の8万円や40万円という賠償額は,2011〔平成23〕年3月11日(事故発生日)から同年12月末までの賠償として,1回限りの金額とされている。
 しかし,事故発生から2011〔平成23〕年12月末日までの間に生じた,(1)生活費増加費用,(2)正常な日常生活が阻害されたことへの精神的苦痛,及び(3)避難及び帰宅に要した移動費用という3つの損害項目について,8万円や40万円で補えないことは,下記のとおり明白である。

  ア (1)生活費増加費用について
 区域外避難者は,避難に伴い,本件事故前は同居し,あるいは近隣に居住していた家族と遠く離れて生活することになる場合が多い。例えば母子避難(夫が仕事上の都合等により避難元に残り,母子で遠方を避難すること)の場合には、離れて生活する夫と母子との間の通信費が嵩み,あるいは,行き来のための交通費が多額に上る。このように通信費や交通費が高額になることは,本件事故前には,同居(あるいは近隣で生活を)していた父母と離れて子ども世帯が孫と共に避難する場合も同様である。また,直系の家族以外でも,親類縁者や地域社会との関係を維持するために,同様に通信費や帰省のための費用が必要となる。これらの費用は,本件事故によって避難をしなければ発生しなかった生活費の増加(損害)である。
 さらに,上に述べた母子避難のように世帯分離がある場合には,住居費をはじめとする生活費の二重負担を強いられることになる。世帯分離がある場合には当然のことであるが,世帯分離がない場合であっても,住居の広さなどのために従前使用していた家財道具を使用することができない等の事情から,新たに家財道具を揃える必要も生じる。
 また,都市部へ避難した場合には,物価の違いだけでも生活費が大きく増加することも多い。
 このように,実際の生活費の増加額だけでも多額にのぼることが明らかである。そうすると,本件事故から平成23年12月末までの期間に生じた(1)生活費増加費用を,後述の(2)(3)と合算した上で,妊婦を除く成人1人当たり8万円,妊婦及び子ども一人当たり40万円とすることは,実際の増加費用を補うについてあまりにも低廉である。

  イ (2)正常な日常生活が阻害されたことへの精神的苦痛について
 避難者は,慣れない場所,慣れない環境における避難生活を送るなかで,様々な不便を強いられ,多大な精神的苦痛を味わっている。
 9か月以上の期間について生じた,(2)正常な日常生活が阻害された慰謝料としての,自主的避難等対象者への1人当たり8万円,妊婦及び子どもに関して40万円との慰謝料は,あまりにも低廉といえる。

  ウ (3)避難及び帰宅に要した移動費用
 区域外避難者の避難場所は,避難者それぞれにおいて異なる。当初の避難に要する費用,避難生活を終えて帰宅に要する費用は,避難先に応じて様々である。例えば,関西圏にまで避難している場合には,近隣の都県に避難している場合と比較して避難及び帰宅に要する移動費用も高額になる。
 にもかかわらず,(3)避難及び帰宅に要した移動費用を個別事情を考慮することなく,一律に評価するとの姿勢は,あまりに杜撰である。また,例えば大阪に避難する費用と帰宅する費用を考えれば,この費用が成人一人当たり8万円や妊婦子ども一人あたり40万円に含まれると考えることは,金額的に低廉にすぎ,不合理というほかない。

  エ 2012〔平成24〕年1月以降について
 2012年〔平成24年〕1月以降も,避難生活は継続し,(1)(2)が増加していくことも明らかである。
 この点を積極的に考慮していない中間指針追補や中間指針第二次追補が,内容において不十分であることは明らかである。

  (2) 滞在者について

  ア (1)放射線被曝への恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により,正常な日常生活の維持・継続が相当程度阻害されたために生じた精神的損害
 滞在者の多くは,放射線防護のため,ペットボトルの水を購入したり,遠方の食材を購入するなどすることを強いられ,結果,日常生活に不便を強いられている。
 また,被ばくを避けるために,季節を問わず,常時,長袖長ズボンを着用する不便を強いられている滞在者も多数である。
 特に,子どもを養育している家族の場合には,子どもを屋外で自由に遊ばせることができないなど,日常生活は著しく阻害されている場合があり,このような滞在者の精神的苦痛は強度なものがある。
 中間指針追補の,これらの点に関する考慮は,余りにも不十分である。
 さらに,2012〔平成24〕年1月以降も、同様に日常生活を阻害されていることも明らかであるから,この点でも,中間指針追補や中間指針第二次追補が不十分であることは明白である。

  イ (2)放射線被曝への恐怖や不安,これに伴う行動の自由の制限等により生活費が増加した分があれば,その増加費用
 放射線防護のためにとっている手段は,各々の滞在者によって様々である。上記のとおり,水や食品に気をつかい,ペットボトルの水を購入したり、遠方の食材を購入するなどする結果,生活費が嵩む場合もある。また,衣類についても同様である。さらに,子どもを養育している家族は,子どもが被ばくをしない環境において遊べるようにするために,県外など遠方まで遊びに行ったり,場合によっては保養のために遠方に宿泊するなどして,生活費の増加が著しい場合がある。
 このような事情を捨象して,一律に考慮したに過ぎない中間指針追補が不十分であることは明らかである。
 また,滞在者は,2012〔平成24〕年1月以降も,なんら変わりのない環境での生活を強いられており,生活費の増加が,2011〔平成23年〕12月で終わるわけではない。

  (3) 小括

 第4の3で述べたように,中間指針追補は区域外避難者に対しても,滞在者に対しても,そもそも極めて限定された損害項目のみを考慮しており,その他の項目については考慮されていない。そして,その考慮した項目に対する賠償額でさえも,それらの損害を補うために必要な金額とはあまりにもかけ離れた低廉な金額となっているのである。
 これは,上述したような少なくとも共通に認められる最低限の損害について迅速に賠償していくという中間指針の性質による限界であり,訴訟における損害評価としては,極めて不十分で合理性に欠けるものである。

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 5 中間指針追補等が低廉な慰謝料額を定めた際の原賠審における議論の問題

 この自主的避難等対象者への1人当たり8万円,妊婦及び子どもに関しては40万円との極めて低廉な賠償額は,以下に述べるように,第18回原子力損害賠償審査会において,明確な根拠も示すことなく決定されている。

  (1) 避難指示等対象者の慰謝料額を参考としたことの問題性

 これらの金額は,避難指示等対象者に対して中間指針で示した慰謝料額を参考にして決められている。原賠審においては,一方では,避難指示等対象者に対する精神的苦痛と区域外避難等対象者に対する精神的苦痛は質的に異なるものとしながら,他方で,区域外避難者に対する賠償額を決定するにあたって避難指示等対象者に対する賠償額を参考にしているのであって,論理的に矛盾している。この点は能見会長も,「避難指示によって避難されている方々の場合には,初期6か月分が20万でしたっけ(ママ)。それで,その後5万円ということで,その場合には12月までの金額というのは,そういう基準のもとで決まりますが,先ほど賠償の理由が少し違うという話をしたので,ちょっと矛盾しているかもしれませんけれども,一方で,そういう金額もにらみながら」と自認している(甲D共74の1・21頁)。
 また,参考とした避難指示等対象者に対する慰謝料額としても,第2期の慰謝料を月額5万円とすることが前提とされてしまっている。しかし,第2期以降の慰謝料はこの議論がされていた当時には月額5万円とされていたものの,後に中間指針第二次追補によって月額10万円へと変更されているから(原告準備書面20・20頁参照),参考とされた前提自体が変わっている。にもかかわらず,区域外避難者の賠償額は見直されておらず、不合理である(甲D共75号証・19頁以下)。

  (2) 屋内退避との対比をしたことの問題性

 8万円という金額は,能見会長が「屋内退避された方、この場合には避難を必ずしもされたというわけではないわけですが、屋内退避された方の場合には、4月少しプラスアルファになりますが、それで10万円という金額であって、それと完全に連動するものではございませんけれども・・・完全に屋内退避の場合の金額と同じでいいかというと、疑問を感じるというご意見もありましたので、そういうことを考慮すると、仮に10万に近いところで、8万とか」(甲D共74の1・24頁)と発言したことを受けて,それ以上の議論もなく,決定されている。
 福島第一原子力発電所から半径20キロメートルから30キロメートル圏内には,2011〔平成23〕年3月15日に屋内退避指示が出された。この区域について,同年4月22日には屋内退避指示が解除され,その大部分は「計画的避難区域」や「緊急時避難準備区域」に設定された。
 屋内退避指示の出された区域の住民には,屋内退避指示が解除された同年4月22日までの約1か月間の精神的損害として10万円を支払うものとされている。しかし,それに止まるものではなく,「計画的避難区域」や「緊急時避難準備区域」に設定された区域の住民には,その後も月額10万円(避難所等へ避難した者は毎月12万円)を支払うものとされ,これらの区域設定がなされなかった地域の住民にも,中間指針によって,同年7月30日まで毎月10万円が支払われるものとされている。
 もとより,屋内退避指示を受けた地域の住民に対する損害賠償額も極めて不十分である。仮に,この点を措いて,これと区域外避難者を比較するとしても、一方では事故後少なくとも7月30日までに合計50万円の支払を受け得るのに対し,区域外避難者は約9ヶ月の損害に対して8万円の支払いを受け得るのみである。これは,「完全に・・同じでいいかというと疑問を感じる」などというレベルではない。区域外避難者に対する賠償額は,屋内退避指示を受けた地域の住民に対する損害賠償額と比較しても,あまりに低廉に過ぎる水準となってしまっている。

  (3) 原賠審の議論経過における問題

 このように,そもそも区域外避難者と避難等対象者を区別して賠償金額を低廉に定めることには何ら合理性がないにもかかわらず,区域外避難者の賠償基準は,原賠審の議論経過において,明確な理由を議論することもないまま,感覚的に,大幅に減額されてしまったものである。
 自主的避難等対象者への1人当たり8万円,妊婦及び子どもに関しては40万円との賠償額は,その決定に至る議論経過に照らしても合理性を欠くことが明らかである。

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