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★ 準備書面(20) −中間指針の位置づけについて− 
 第3 原賠審の示す指針の位置づけ 
2015〔平成27〕年9月18日

 目 次(←クリックすると準備書面(20)の目次に戻ります)

第3 原賠審の示す指針の位置づけ
 1 中間指針等は損害の範囲や額を限定するものではないこと
 2 賠償範囲等を限定するものでないと指針も繰り返し明記していること
 3 審議過程での委員による指針の性質についての言及
 4 小括



第3 原賠審の示す指針の位置づけ


 1 中間指針等は損害の範囲や額を限定するものではないこと

 原賠審の示す指針は,切迫した生活状況にある被害者らに対し可能な限り迅速な救済を実現するために,原子力損害に該当する蓋然性の高いものから提示したものである。それ故,原賠審の指針において示されなかったものが直ちに賠償の対象とならないとするものではなく,指針で示されていなくとも個別具体的な事情に応じて損害と認められるべきものが存することが,当然の前提とされている。
 これは,損害賠償請求をなしうる被害者の範囲(事故当時の居住地域や避難したか否かによる主体の区別)や,被害者に生じた損害の項目,各損害項目の金銭的評価のいずれについても限定するものではなく,個別具体的な事情に応じて損害と認められるべきものが存することを意味する。


 2 賠償範囲等を限定するものでないと指針も繰り返し明記していること

 このような指針の位置づけについては,以下に示すように,原賠審により発表された各指針の本文中に繰り返し記載され,強調されている。

  (1) 第一次指針

 本件事故発生から約1か月後の2011〔平成23〕年4月28日に発表された第一次指針の「第1 はじめに」には,下記のとおり明示された(アンダーラインは原告ら代理人によるものである)。
     記
福島第一原子力発電所から半径約30q圏内を中心に福島県全体のみならず周辺の各県も含めた広範囲に影響を及ぼす事態に至った。これら周辺住民らの被害は,その規模,範囲等において未曾有のものであり,本件事故発生から1ヶ月を経過してもなお依然として事故が終息しない状況が続いている。また,数万人以上に及ぶ避難者,営業被害等を受けた多数の事業者を始めとする被害者らの生活状況等は,今後の被害の全容の確認を待つことができないほど切迫しており,このような被害者を迅速,公平かつ適正に救済する必要がある。
 このため,原子力損害による賠償を定めた原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)に基づき,「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」(同法18条2項2号,以下「指針」という。)を策定するに当たっては,上記の事情にかんがみ,原子力損害に該当する蓋然性の高いものから,順次指針として提示することとし,可能な限り早期の被害者救済を図ることとした。
 このように,原賠審の示す指針が,切迫した生活状況にある被害者らを可能な限り迅速に救済するために,原子力損害に該当する蓋然性の高いものから提示されたという性質を持つものであることが明示されている。

  (2) 第二次指針

 第二次指針でも下記のとおり明示された。
     記
 なお,第一次指針及び第二次指針で対象とされなかったものが賠償すべき損害から除外されるものでないことは,第一次指針の「第1 はじめに」の2で述べたとおりであり,これらについても,今後検討する。

  (3) 中間指針

 中間指針(乙D共1号証)でも,「はじめに」において,下記のとおり明示されている。第一次指針と同様の記述である。
     記
 避難を余儀なくされた住民や事業者,出荷制限等により事業に支障が生じた生産者などの被害者らの生活状況は切迫しており,このような被害者を迅速,公平かつ適正に救済する必要がある。
 このため,原子力損害賠償紛争審査会(以下「本審査会」という。)は,原子力損害による賠償を定めた原子力損害の賠償に関する法律(以下「原賠法」という。)に基づき,「原子力損害の範囲の判定の指針その他の当該紛争の当事者による自主的な解決に資する一般的な指針」(同法18条2項2号)を早急に策定することとした。策定に当たっては,上記の事情にかんがみ,原子力損害に該当する蓋然性の高いものから,順次指針として提示することとし,可能な限り早期の被害者救済を図ることとした。
 さらに,下記記述にも留意すべきである(アンダーラインは原告ら代理人によるものである)。
     記
 この指針(以下「中間指針」という。)は,本件事故による原子力損害の当面の全体像を示すものである。この中間指針で示した損害の範囲に関する考え方が,今後,被害者と東京電力株式会社との間における円滑な話し合いと合意形成に寄与することが望まれるとともに,中間指針に明記されない個別の損害が賠償されないということのないよう留意されることが必要である。東京電力株式会社に対しては,中間指針で明記された損害についてはもちろん,明記されなかった原子力損害も含め,多数の被害者への賠償が可能となるような体制を早急に整えた上で,迅速,公平かつ適正な賠償を行うことを期待する。
 なお,この中間指針は,本件事故が収束せず被害の拡大が見られる状況下,賠償すべき損害として一定の類型化が可能な損害項目やその範囲等を示したものであるから,中間指針で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。また,今後,本件事故の収束,避難区域等の見直し等の状況の変化に伴い,必要に応じて改めて指針で示すべき事項について検討する。
 このように,指針で「明記されなかった原子力損害」ないし「指針で対象とされなかったもの(損害)」についても,賠償対象となりうることが明示されている。

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  (4) 中間指針追補

 一部の区域外避難者に対しても賠償すべきことを示した中間指針追補(乙D共3号証)においても,下記のとおり,指針が,区域外避難者について賠償対象となるべき範囲を限定するものではないことが明示されている(アンダーラインは原告ら代理人によるものである)。

     記
本件事故と自主的避難等に係る損害との相当因果関係の有無は,最終的には個々の事案毎に判断すべきものであるが,中間指針追補では,本件事故に係る損害賠償の紛争解決を促すため,賠償が認められるべき一定の範囲を示すこととする。
 なお,中間指針追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。

  (5) 中間指針第二次追補

 中間指針第二次追補(乙D共5号証)でも,下記のとおり,被告東京電力が指針に明記されていない損害についても,個別の事例又は類型毎に賠償すべきことが明示されている(アンダーラインは原告ら代理人によるものである)。
     記
 東京電力式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における事故(以下「本件事故」という。)とこれらの損害との相当因果関係の有無は,最終的には個々の事案毎に判断すべきものであるが,第二次追補では,本件事故に係る損害賠償の紛争解決を促すため,賠償が認められるべき一定の範囲を示すこととする。
 なお,中間指針,第一次追補及び第二次追補で対象とされなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められることがあり得る。その際,これらの指針に明記されていない損害についても,個別の事例又は類型毎に,これらの指針の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,その全部又は一定の範囲を賠償の対象とする等,東京電力株式会社には合理的かつ柔軟な対応が求められる。

  (6) 中間指針第四次追補

 中間指針第四次追補(乙D共7号証)でも,「第1 はじめに」において,下記のとおり述べられている(アンダーラインは原告ら代理人によるものである)。
     記
 なお,本審査会の指針において示されなかったものが直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは,指針で示されていないものも賠償の対象となる。また,本指針で示す損害額の算定方法が他の合理的な算定方法の採用を排除するものではない。東京電力株式会社には,被害者からの賠償請求を真摯に受け止め,本審査会の指針で賠償の対象と明記されていない損害についても個別の事例又は類型毎に,指針の趣旨を踏まえ,かつ,当該損害の内容に応じて,その全部又は一定の範囲を賠償の対象とする等,合理的かつ柔軟な対応と同時に被害者の心情にも配慮した誠実な対応が求められる。
 さらに,東京電力株式会社福島第一原子力発電所及び福島第二原子力発電所における事故(以下「本件事故」という。)による被害は極めて広範かつ多様であり,被害者一人一人の損害が賠償されたとしても,被災地における生活環境,産業・雇用等の復旧・復興がなければ,被害者の生活再建を図ることは困難である。このため,本審査会としても,東京電力株式会社の誠実な対応による迅速,公平かつ適正な賠償の実施に加え,被害者が帰還した地域や移住先における生活や事業の再建に向け,就業機会の増加や就労支援,農林漁業を含む事業の再開や転業等のための支援,被災地における医療,福祉サービス等の充実など,政府等による復興施策等が着実に実施されることを求める。

  (7) 小括

 以上のとおり,原賠審の示す指針自体が,審査会の指針において示されなかったものは直ちに賠償の対象とならないというものではなく,個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは,指針で示されていないものも賠償の対象とすべきことを繰り返し強調している。
 特に,中間指針以降では,指針に明記されなかった原子力損害についても被告東京電力が適正な賠償を行うべきことに言及し,繰り返し強調されている。これは,原賠審委員らが被告東京電力の賠償姿勢を問題視していたことの現れである。

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 3 審議過程での委員による指針の性質についての言及

  (1) 委員の言及

 中間指針等のこのような位置づけについては,原賠審の審議中にも委員から繰り返し言及されている。
 原賠審の第1回会合(2011〔平成23〕年4月15日)では,委員の1人である鎌田薫教授(早稲田大学総長,早稲田大学法務研究科教授)が,「だれが見てもこれは賠償しなければいけないというものについて,とりあえず一義的に指針を定め」るべきであると発言している(甲D共59号証29頁)。そして,この意見が審査会における議論の基調となっており,能見会長も折に触れてこの点を強調している。
 避難指示等がなされた区域外からの避難者について,すなわち賠償対象となる人の範囲を広げることについて初めて議論された第12回会合(2011〔平成23〕年7月29日)でも,鎌田委員は,「たびたび確認もさせていただいているんですけれども,この指針の中で,具体的に賠償されるべき損害の範囲として摘示されなかったものは,賠償されるべき損害の範囲から外れているんだというわけではないということ,つまり,どこまでが賠償されるべき損害の範囲かということのすべてを決めるのが,この指針の役割ではないということが大前提だと思うんですね。」,「かなり微妙なところまで全部決まらないと指針が出せないということになれば,それだけ,この指針に従った迅速な救済というのが遅れていくので,もともと第一次指針のときから,少なくとも最低限,だれが見てもこれだけは必ず賠償されるべきだという疑問のないところから順に拾い上げていきましょう。しかも,運用するたびに,一見,指針で賠償されるべきものとされているようだけれども,個別に審査しなければいけないというものでないところから,決められるところから決めていけば,少なくとも,その部分からは早く救済されるということで,一次指針,二次指針,そして,この中間指針というふうにきたんだと理解しています。だから,ここに書かれていないものは賠償しないというふうな宣言をしているという読まれ方はされては困るというのが大前提」と発言している(甲D共61号証32頁)。
 また,第21回会合(2012〔平成24〕年1月27日,郡山市で開催)では,意見陳述した地元市町村長らの中間指針への厳しい批判に対し,能見会長は,「指針というのは,裁判でいけば認められるであろうという賠償を一応念頭に置きながら,しかし,多数いろんな個別事情はあって,いろいろみんなばらばらですので,賠償する東電も納得して,迅速に支払ってくれるような,そういう意味で,共通の損害みたいなものを指針の中で取り出して,中間指針とか,あるいは,その補足の指針として出してきているというものでございます。そういう意味で,これを前提として,指針に書いていないから賠償しないという考え方は,もともとおかしい。東電がそういう言い方をしているということは,私も聞き知っておりますけれども,それについては毎回毎回,審査会としても,この指針の性質というものは,そういうものではなくて,個別の事情に基づいて生じる損害については,指針が上限になるものではなくて,それ以上の損害賠償というものは認められるというのが大原則でございます。」としながら,「指針というのは,東電を縛るものではなく,これはあくまで東電が自主的にその指針に基づいて賠償するものですから,結局,東電がどうしても嫌だと言われてしまうと動かなくなってしまう。・・・普通の損害賠償の場合であればどうであるかというのを調べた上で,東電としてもそう反対しにくい賠償というものを決めていくというのが指針の役割である」,「東電が納得してと言いますか,合理的に考えれば納得して,賠償を支払うという金額を定めることになりますので,・・」等と発言している(甲D共62号証17頁。アンダーラインは原告ら代理人によるものである。)。
 これらの委員の発言からも分かるように,指針で定められている損害賠償の範囲やその金額は,誰もが,すなわち被告東京電力さえも納得せざるを得ない水準で定められたものである。これは,迅速な救済の実現を図る狙いとそもそも当事者間の合意を促進するための指針であるという性質上の制限から導かれるものである。それ故,これらの原賠審の示す指針は,その成り立ちや性質上,必然的に損害賠償の範囲や金額において,被告東京電力さえも反対しにくいような極めて限定的なものとして算出される特徴を持つこととなる。
 指針の示す基準は,性質上極めて限定的なものとなっていることに十分な留意が必要である。

  (2) 被告東京電力の姿勢が批判されていること

 このように,原賠審の示す指針は,ADRという和解手続を念頭において被告東京電力が納得せざるを得ない損害項目だけを類型化したもので,その内容は本件原発事故による損害をすべて網羅したものではないことが明らかである。
 それにもかかわらず,被告東京電力は,被害者からの直接請求やADRでの対応として,原賠審が示すこれらの指針に示された損害賠償の範囲及び金額につき,これを賠償の上限として,これ以上の賠償に応じない態度をとってきた。
 この点は,原賠審でも度々問題視されており,第21回会合(2012〔平成24〕年1月27日,郡山市で開催)では地元の市町村長らが「指針に載っていないものは賠償できないというのが被告東京電力の態度の実態である」との意見を述べている(甲D共62号証15頁等)。
 これを受けて,第22回会合(2012〔平成24〕年2月9日)には,被告東京電力の廣瀬直己常務が出席を求められた。大塚直会長代理から,「東京電力株式会社の廣瀬常務取締役から説明を伺います。なお,前回の審査会では,東京電力が指針に明示されていないという理由で賠償請求に応じないという発言が複数の自治体からございました。その点も含めて説明していただければと思います。」として説明を求められた廣瀬常務は,「書いていないから全く受け付けないで門前払いをしているかということはなく,あくまでも指針というのは,いわゆる最大公約数的な,広く皆さんに適用されるものだというふうに理解しておりますので,個々の方はそれぞれのご事情があるわけでございますので,それを一つ一つできる限り聞いて対応していくということで,一つ一つの個々のケースでは,事情を踏まえてお支払いに至るケースも出てきております。」等と述べた上で,「たくさんのご批判,お叱りが寄せられていることからもわかりますように,私どもとしてなかなか全部うまく対応できていないというのも,事実だと認識しております。どうしても数をこなさなければいけないというのが少し先に立って,なかなかうまい対応ができていないというのもあると思っておりますので,その辺につきましては,引き続き,私ども,しっかり末端の人間まで含めて,社内徹底して,いわゆる親身,親切なご対応をしていかなければいけないということで,これからも一生懸命努力したいと思っております。」との弁解をしている(甲D共63号証2頁以下)。
 続く第23回会合(2012〔平成24〕年2月17日)でも,出席した原子力損害賠償紛争和解仲介室の野山宏室長は,「東京電力の賠償の末端の現場,被害者の方々と直接接触がある現場では,『中間指針に具体的に書いていないことを賠償することは,中間指針に反するんだ。だから賠償はできないんだ』と,このような説明が,東京電力の賠償の末端の方々から話されていたということを,福島県のいろんな方々からのお話とか,当方のコールセンターにかかってくる電話から,そうであったのではないかと,私どもは推定いたしております。私どもの理解するところでは,中間指針というのは,原子力事故と相当因果関係のある損害は全部賠償するんだ,そういう相当因果関係があるという大きな丸があり,その中でさらに,賠償を促進するために,昨年の8月5日までに認識された主要な損害類型が個別に,大きな丸の中でさらに小さな丸として書き込まれている。しかし,大きな丸の中に入っていれば,小さな丸の中に入っていなくても賠償の対象になるんだと,当センターはずっとそういう方針でやってきました。しかしながら,先ほどの東京電力の末端の説明によりますと,大きい丸に入っていても,小さい丸に入っていないものは賠償しないと,こういう結論になりますので,非常に問題だなと思っております。」「それで,最近,具体的に書いていないものの賠償も進めておられるようですが,私どもから見ていますと,まだまだ不十分なのではないか。」として(甲D共64号証7頁),ADRにおける被告東京電力の対応を問題視する報告をしている。
 被告東京電力が,本件訴訟においても,原賠審の示す指針に従って賠償に応じる方針である等と主張しているのは,被告東京電力が,現在もこのような批判された態度を改めていないことを示すものに他ならない。


 4 小括

 以上のように,原賠審の示す指針は,切迫した生活状況にある被害者らに対して可能な限り迅速な救済を実現するために,原子力損害に該当する蓋然性の高いものだけを提示したものであって,原賠審の示す指針において示されなかったものが直ちに賠償の対象とならないとするものではない。同指針で示されていなくとも個別具体的な事情に応じて損害と認められるべきものが存することは,同指針自体が繰り返し明記しているところである。
 加えて,同指針は,迅速な救済の実現を図る目的で,当事者間の合意を促進するために作成されたものであり,被害者に発生した損害全額を評価したものではない。
 したがって,原賠審の示す指針は,具体的な財産的損害に関する損害項目やその評価額に関して,認められるべき最低限を明らかにしたものとしての意味を持つとは言えるものの,本件訴訟において認容されるべき損害の範囲等を限定する意味を持つものでは無いことが明らかである。

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