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★ 原告準備書面(17) ―シビアアクシデント対策懈怠の過失 補論― 
 第3 「設計基準事象を逸脱する」事象は予見可能である 
平成27年6月30日

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第3 「設計基準事象を逸脱する」事象は予見可能である
 1 問題の所在
 2 IAEA安全基準
 3 小括



第3 「設計基準事象を逸脱する」事象は予見可能である


 1 問題の所在

 被告らは,原告のシビアアクシデント対策の予見対象の定義に「設計基準を逸脱する」ことが含まれている点を捉え,「設計基準を逸脱する事象」=「予見不可能」であると主張するようである。
 しかし,「設計基準を逸脱する」ということは,設計基準事故(DBA: Design Base Accident)を超える事故(Beyond DBA)を意味する制度設計上の概念にすぎず,確率論的評価手法等を用いて予見可能である。以下,IAEA安全基準を参照しつつ詳述する。


 2 IAEA安全基準

  (1)IAEA安全基準「原子力発電所の安全:設計」

 IAEAは原子力発電所の安全基準として,2000(平成12)年「原子力発電所の安全:設計NO.NS−R−1(Safety of Nuclear Power Plants:Design)」(以下「NS−R−1」という)を公開し,シビアアクシデント対策を規制要件化した。同基準は2012(平成24)年に「NO.SSR−2/1」に更新された(甲C52:「IAEA安全基準原子力発電所の安全:設計 NO.SSR−2/1」。以下「SSR−2/1」という)。

  (2)「NS−R−1」と「SSR−2/1」

 ここで,NS−R−1(2000年)は,事故状態を「設計基準事故(DBA)」と「設計基準を超える事故(Beyond DBA)」に分類整理した。
 他方,SSR−2/1は,事故状態を「設計基準事故」と「設計拡張状態(Design Extension Condition;DEC)」に分類整理した。しかしながら,「設計基準を超える事故」と「設計拡張状態[1]」は,用語の置き換えにすぎず事故の進展状況としては同じである(下図参照:甲C53:「IAEA基準の動向―多重防護(5層)の考え方等―」,ここではSSR−2/1のコード名である「DS414」と表示されている)。「SSR−2/1」においては,「設計基準を超える事故」の用語説明の欄に,「この用語(設計基準を超える事故)は,設計拡張状態に置き換えられている。」と明示されており,両者を同じものとしている。

[甲C53−7:「IAEA基準の動向―多重防護(5層)の考え方等―」]【図省略】

[1] 設計基準事故としては考慮されない事故状態であるが,施設の設計プロセスの中で最適評価手法に従って検討され,また,放射性物質の放出が容認限度内に保たれるもの。拡張設計状態は,シビアアクシデント状態を含むことがある。(甲C52−60:「SSR−2/1」)

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  (3)「SSR2/1」の規制要件

 上述のように,「SSR2/1」は事故状態を「設計基準事故」または「設計拡張状態」と段階的に整理した。後者は「設計基準を超える事故」を用語上置き換えたものである。
 ここで,「SSR2/1」は,「要件19」にて「設計基準事故」について項目を設け,「設計において考慮されるべき一式の事故状態は,原子力発電所が放射線防護の容要限度を超えることなく耐える境界条件を設定する目的のために想定起因事象から導かれなければならない。」とし,「保守的な方法で解析」することを求めている。
 この点,「IAEA基準の動向―多重防護(5層)の考え方等―」(甲C53)は,要件19を「設計基準事故に対しては単一故障を想定した決定論的で保守性を見込んだ評価を適用する」と解説している。
 他方,「設計拡張状態」は「要件20」にて要件化されており,工学的判断,決定論的評価,確率論的評価により導出することが要件化されている(甲C52−23,24:「SSR−2/1」)。
 要件20の趣旨については,平野光將氏作成の資料が簡潔にこれを説明しているため同資料を引用する。

 同資料は,要件20(シビアアクシデント対応)が,「光学的判断及び確率論的手法に基づ」き「シビアアクシデントに至る重要な事象を同定し」,「選定事象の発生頻度を減らす又は発生した場合の影響を緩和」することを「要件化」したものと解説している。

[甲C51−26:平野光將氏聴取結果書(添付資料2)]【図省略】


 3 小括

 IAEAの安全基準(SSR−2/1)要件20は,設計拡張状態(=旧規定では「想定を超える事故」)については工学的判断,決定論的評価,確率論的評価にて「シビアアクシデントに至る重要な事象を同定」し対策を行うこと(「発生頻度の減少」または「影響の緩和」)ことを要件化している。これは更新前(かつ福島事故前)のNS−R−1にも妥当する(甲C53−7:「IAEA基準の動向―多重防護(5層)の考え方等―」参照)。
 したがって,IAEAは,「想定を超える事故」に関して,工学的判断,決定論的評価,確率論的評価を用いてシビアアクシデントに至る重要な事象を同定し,対策を行うことを要件化していた。
 不法行為の要件事実に置き換えれば,「想定を超える事故」に分類される状態であっても,確率論的評価等の方法を用いて,シビアアクシデントに至る重要な事象を予見し対策することが可能であることを前提として規制要件化していたのである。
 よって「想定を超える事故」は予見不可能と述べる被告らの主張は誤りである。

 確率論的評価として,PSA,前兆事象(ASP)評価がある。PSAについてはすでに原告準備書面(8)にて詳述した。以下,前兆事象評価手法について詳述し,シビアアクシデント対策懈怠の過失に関し,「起因事象」が具体的な予見の対象であり,かつ,予見可能であったことについて主張する。


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