TOP    裁判資料    会報「原告と共に」   げんこくだより   ブログ   リンク

★ 原告準備書面(17) ―シビアアクシデント対策懈怠の過失 補論― 
 第1 シビアアクシデント対策についての被告らの主張 
平成27年6月30日

目 次(←クリックすると原告準備書面(17)の目次に戻ります)

第1 シビアアクシデント対策についての被告らの主張
 1 予見可能性の対象としての特定性
 2 被告国のシビアアクシデント対策の位置づけ
 3 被告らの主張の誤り



第1 シビアアクシデント対策についての被告らの主張


 1 予見可能性の対象としての特定性

 被告国は,シビアアクシデント対策の予見可能性について,下記の主張をしていると理解される。
  1. シビアアクシデントに至った具体的な原因事象が特定されていない。
  2. 予見可能性は,結果発生の原因となる事象が対象とされるべきである。
  3. 予見可能性の対象は,具体的な法益侵害の危険性が認められる具体的事実であることが必要。
 2 被告国のシビアアクシデント対策の位置づけ

 また被告国は,シビアアクシデント対策の位置づけを下記のように捉えて主張し,よって,国賠法上の違法性を根拠づける上での予見可能性の対象となり得ないものと主張していると理解される。
  1. 一種の技術的評価上仮定される概念(確率論的評価における技術的評価上仮定される概念であって,原告らは,予見可能性と混同している)
  2. 法益侵害の原因となる具体的な事象とは大きく異なる


 3 被告らの主張の誤り

 被告東電の主張は必ずしも明らかでないが,基本的には,前記1項各号と同様の立場であると理解される。被告らの主張は,シビアアクシデント対策の予見可能性を論じる上では,結果発生の原因が特定されなければならないという立場に基礎を置いている。
 その上で,津波対策については,予見可能な具体的な津波を予見することに対比し,シビアアクシデント対策は,予見可能な津波を超える津波(すなわち予見不可能な津波)を原因とする事象に対する備えであるから,シビアアクシデント対策をしないことは,法的責任をおよそ生じさせるものではないという結論に結びつく。
 しかし,被告らの立論は,そのスタート時点,すなわちシビアアクシデント対策を論じる際に結果発生の原因が具体的に特定されなければならないという理解が誤っている。
 そもそも,本件において問題とされる注意義務は,到来する津波の高さではなく,原子力発電所の安全設備が適切に内的事象,外的事象,人為的事象等に対応できるか否かに関わる問題である。
 決定論的に設計基準津波を想定することも,確率論的にシビアアクシデントを想定することも,双方ともに原子力発電所の施設としての適切な安全性確保に向けた安全性評価の問題である。
 設計基準津波は,あくまで決定論的な手法によって施設の安全性を確保するために想定されるものである。しかし,施設の安全性確保には,決定論的な手法のみでは十分ではない(そのことが,本件事故当時までに世界の共通認識となっていたことについては後述する)。
 確率論的評価によって,原子力発電所が十分な安全性を確保できているかどうかを確認すべき注意義務が,被告らにはあったのである。
 被告らには,決定論的な手法及び確率論的手法によって原子力発電所の安全施設が十分なものであることを確保する義務があったのであり,予見の対象は,あくまで各手法に基づいて想定される炉心損傷のリスクである。
 確率論的手法においては,津波など外的事象を確率論的に評価するが,そのことは,当該津波の発生自体を予見すべきことを被告らに求めるものではない。
 その意味で,被告らは決定論的な手法によって設計基準津波について予見をすべきであるし,確率論的手法によって起因事象(SBO,崩壊熱除去系の破綻等)を予見すべきだったのである。
 以下,詳述する。


 △ページトップへ

原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
  〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55−1 コーポ桃山105号 市民測定所内
   Tel:090-1907-9210(上野)  Fax:0774-21-1798
   E-mail:shien_kyoto@yahoo.co.jp  Blog:http://shienkyoto.exblog.jp/
Copyright (C) 2017 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 All Rights Reserved. すべてのコンテンツの無断使用・転載を禁じます。