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目 次(←準備書面(9)の目次に戻ります) 第2 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループと同報告書の概要 1 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの概要 2 WG報告書と区域再編 3 WG報告書の概要 第2 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループと同報告書の概要 1 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループの概要 (1) 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループとは 低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(WG)は,2011(平成23)年11月,放射性物質汚染対策顧問会議(平成23年8月25日内閣官房長官決済により設置。以下「顧問会議」という。)の下に設置されたものである。 設置の趣旨について,「低線量被ばくリスク管理に関するワーキンググループ報告書」(WG報告書)では, 「東電福島第一原発事故による放射性物質汚染対策において,低線量被ばくのリスク管理を今後は一層,適切に行っていくことが求められる。そのためには,国際機関等により示されている最新の科学的知見やこれまでの対策に係る評価を十分踏まえるとともに,現場で被災者が直面する課題を明確にして対応することが必要である。このような観点から,細野豪志原発事故の収束及び再発防止担当大臣の要請に基づき,国内外の科学的知見や評価の整理,現場の課題の抽出,今後の対応の方向性の検討を行う場」として設置したものと説明されている(甲共D35・1頁)。 (2) WGの構成員 WGの構成員は,顧問会議座長が指名し,顧問会議座長の指名により主査を置くこととされた(甲共D36・低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ(内閣官房ホームページ))。 顧問会議座長は,原子力委員会委員長でもある近藤駿介(東京大学名誉教授)であった。近藤駿介が指名した構成員は合計9名で,うち6名が顧問会議の構成員からの指名であった。 主査には,長瀧重信と前川和彦が,共同主査として指名された。 (3) 審議方法 ワーキンググループは,2011(平成23)年11月9日から同年12月15日にかけて,合計8回開催された(組織としての「WG」と,会議としての「ワーキンググループ」とを区別して,会議を指す場合には,以下では「ワーキンググループ」とカタカナ表記することとする。)。 ワーキンググループには,WG構成員の他,政府側出席者として,細野豪志環境大臣兼原発事故の収束及び再発防止担当大臣らが出席した(甲共D35・24頁。いずれも当時の役職)。 第1回から第7回までのワーキンググループでは,毎回2名の説明者からの発表と質疑応答が行われ,第8回ワーキンググループではとりまとめが行われた。 そして,WGは,同年12月22日,WG報告書(甲共D35)を作成した。 △ページトップへ 2 WG報告書と区域再編 (1) WG報告書と区域再編 WG報告書が作成された4日後の同月26日,原子力災害対策本部は,「ステップ2の完了を受けた警戒区域及び避難指示区域の見直しに関する基本的考え方及び今後の検討課題について」(甲共D37)を発表した。 この発表の中で,原子力災害対策本部は, 「この度の区域見直しの検討に当たっては,年間20ミリシーベルトの被ばくリスクについては様々な議論があったことから,内閣官房に設置されている放射性物質汚染対策顧問会議の下に『低線量被ばくのリスク管理に関するワーキンググループ」を設け,オープンな形で国内外の幅広い有識者に意見を表明していただくとともに,低線量被ばくに関する国内外の科学的知見や評価の整理,現場からの課題抽出などを行った。」としている(甲共D37・3頁)。 すなわち,WGないしWG報告書は,政府による区域再編を念頭に置いて設置ないし作成されたものであった (2) 区域再編は「参考レベル」の問題であり「限度」の問題ではない WG報告書の概要については次項で述べるが,これに先立って,区域再編は『参考レベル』に依拠した政治決断の問題であり,低線量被ばくの危険性ないし安全性や,被ばく線量限度とはまったく別の問題であることを指摘しておく。 低線量被ばくの放射線リスク,すなわち放射線による有害性発現可能性については,しきい値のないLNT仮説が採用されている(甲共D35・8頁)。すなわち,低線量被ばくについて,これ以下であれば安全であるという境界はないというのが,国際的に採用されている考え方である(甲A1・402頁)。 このLNT仮説を前提として, 「ある一定期間に受ける線量がそのレベルを超えると考えられる人に対して優先的に防護措置を実施し,そのレベルより低い被ばく線量を目指すために利用する」ものが,ICRPのいう「参考レベル」である(甲共D35・10頁)。区域設定ないし区域再編に即していえば,どのレベルの線量を超える人ないし地域に対して,強制避難や居住禁止という強制的防護措置を実施するかという問題である。除染に即していえば,どのレベルの線量を超える地域をまずは優先的に除染を実施するか,そして,除染によって達成目標とした線量低減が実現すれば,次はどのレベルの線量地域を優先的に除染するか(そして最終的には1mSv以下を目指す),という問題である。 このように,区域設定ないし区域再編における線量の問題は,あくまでも『参考レベル』に依拠した政治決断の問題である。この参考レベルの概念は, 「被ばくの“限度”を示したものではない。また,“安全”と“危険”の境界を意味するものでは決してない。」と,WG報告書においても明確に説明されている(甲共D35・10頁)。 以下,WG報告書の概要を説明するが,WG報告書の理解ないし評価においては,「参考レベル」,「リスク」,「安全」ないし「危険」,「限度」といった概念を,混同することなく区別しておくべきである。 △ページトップへ 3 WG報告書の概要 (1) WG報告書の構成 WG報告書は,大きく分けて,次の4つの項目から構成されている。 「1 ワーキンググループ開催の趣旨等」それぞれの項目における概要は,以下のとおりである。 (2) ワーキングループ開催の趣旨等 WG報告書は,まず,WG開催の趣旨について,本準備書面第1・1で引用したとおり述べたうえで,具体的課題として,次の3点について,WGが科学的見地からの見解を求められたとしている(甲共D35・1〜3頁)。 「1)第一に,現在,避難指示の基準となっている年間20ミリシーベルトという低線量被ばくについて,その健康影響をどのように考えるかということ。政府は年間20ミリシーベルトを一つの基準として,避難指示を判断してきた。この年間20ミリシーベルトという基準について,健康影響という観点からどのように評価できるのか。(3) 科学的知見と国際的合意 ア 「2.1.現在の科学でわかっている健康影響」 (ア) 低線量被ばくのリスク WG報告書では,短時間における低線量被ばくによる健康影響に関する科学的知見について, 「国際的な合意では,放射線による発がんのリスクは,100ミリシーベルト以下の被ばく線量では,他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため,放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる。疫学調査以外の科学的手法でも,同様に発がんリスクの解明が試みられているが,現時点では人のリスクを明らかにするには至っていない。」とする。また, 「一方,被ばくしてから発がんまでには長期間を要する。したがって,100ミリシーベルト以下の被ばくであっても,微量で持続的な被ばくがある場合,より長期間が経過した状況で発がんリスクが明らかになる可能性があるとの意見もあった。」ともする。そして, 「いずれにせよ,徹底した除染を含め予防的に様々な対策をとることが必要である。としている(同4頁)。 (イ) 長期にわたる被ばくの健康影響 他方,長期にわたる被ばくについては, 「低線量率の環境で長期間にわたり継続的に被ばくし,積算量として合計100ミリシーベルトを被ばくした場合は,短時間で被ばくした場合より健康影響が小さいと推定されている(これを線量率効果という。)。」,「東電福島第一原発事故により環境中に放出された放射性物質による被ばくの健康影響は,長期的な低線量率の被ばくであるため,瞬間的な被ばくと比較し,同じ線量であっても発がんリスクはより小さいと考えられる。」とする(同4〜5頁)。 (ウ) 外部被ばくと内部被ばくの違い 外部被ばくと内部被ばくについては, 「内部被ばくは外部被ばくよりも人体への影響が大きいという主張がある。しかし,放射性物質が身体の外部にあっても内部にあっても,それが発する放射線がDNAを損傷し,損傷を受けたDNAの修復過程での突然変異が,がん発生の原因となる。そのため,臓器に付与される等価線量が同じであれば,外部被ばくと内部被ばくのリスクは,同等と評価できる」とする。ただし,欄外には,小さな字で 「放射線の感受性を定めるに当たっては,性と年齢について平均化して検討している。そのため,実際のリスク値は,子どもの方が高い等の変動を含みうる。」と注釈をつけている(同5頁)。 (エ) 子ども・胎児への影響 子ども・胎児への影響については, 「一般に,発がんの相対リスクは若年ほど高くなる傾向がある。小児期・思春期までは高線量被ばくによる発がんのリスクは成人と比較してより高い。しかし,低線量被ばくでは,年齢層の違いによる発がんリスクの差は明らかではない。他方,原爆による胎児被爆者の研究からは,成人期に発症するがんについての胎児被ばくのリスクは小児被ばくと同等かあるいはそれよりも低いことが示唆されている」としている(同7頁)。 イ 「2.2.放射線による健康リスクの考え方」 WG報告書は, 「放射線のリスクとは,その有害性が発現する可能性を表す尺度である。“安全”の対義語や単なる“危険”を意味するものではない。」として,「リスク」という用語と,「安全」ないし「危険」という用語とを明確に区別している(同8頁)。 そのうえで,WG報告書は, 「放射線防護や放射線管理の立場からは,低線量被ばくであっても,被ばく線量に対して直線的にリスクが増加するという考え方を採用する。」としてLNT仮説を明示的に採用している(同8頁)。 ウ 「2.3.ICRPの「参考レベル」」 WG報告書は,ICRPの「参考レベル」について, 「経済的及び社会的要因を考慮しながら,被ばく線量を合理的に達成できる限り低くする“最適化”の原則に基づいて措置を講じるための目安である。」とする。そして, 「参考レベルは,ある一定期間に受ける線量がそのレベルを超えると考えられる人に対して優先的に防護措置を実施し,そのレベルより低い被ばく線量を目指すために利用する。また,防護措置の成果の評価の指標とするもの」であって, 「被ばくの“限度”を示したものではない。また,“安全”と“危険”の境界を意味するものでは決してない。」としている(同10頁)。 すなわち,参考レベルは,LNT仮説に基づきあらゆる低線量被ばくにリスクがあるという考えに基づき,どの人ないし地域を対象として避難指示や居住禁止,除染といった優先的防護措置を政府が採るべきかの目安であって,被ばく線量限度や,安全基準を示すものではないことが述べられている。 エ 「2.4.放射線防護の実践」 WG報告書は,放射線防護の実践のあり方について, 「放射線防護措置の選択に当たっては,ICRPの考え方にあるように,被ばく線量を減らすことに伴う便益(健康,心理的安心感等)と,放射線を避けることに伴う影響(避難・移住による経済的被害やコミュニティの崩壊,職を失う損失,生活の変化による精神的・心理的影響等)の双方を考慮に入れるべきである。」,として,国がなすべき放射線防護「政策」の問題であることを明らかにしている(同11頁)。 (4) 福島の現状に対する評価と今後の対応の方向性 WG報告書は, 「政府はこれまで,年間20ミリシーベルトを避難の基準としてきたが,実際の被ばく線量は,年間20ミリシーベルトを平均的に大きく下回ると評価できる。年間20ミリシーベルト以下の地域においても,政策として被ばく線量をさらに低減する努力が必要である。なかでも,放射線影響の感受性の高い子ども,特に放射線の影響に対する親の懸念が大きい乳幼児については,放射線防護のための対策を優先することとし,きめ細かな防護措置を行うことが必要である。」とする(同13頁)。 なかでも,子どもの生活環境については, 「また,学校だけではなく,通学路や公園等の子どもの生活圏の除染を徹底的に行い,長期的に子どもの生活圏における追加被ばく線量を年間1ミリシーベルト以下とすることを目指すべきである。」としている(同17頁)。 (5) WG報告書における「まとめ」 ア まとめ 最後に,WG報告書は,検討を求められたとする3点について, 「年間20ミリシーベルトという数値は,今後より一層の線量低減を目指すに当たってのスタートラインとしては適切であると考えられる。」,などと整理している。 そのうえで,WG報告書は,(1)除染実施にあたっては漸進的な線量設定を行うこと,(2)子どもの生活環境の除染の優先,(3)子どもの食品に対して特に配慮すること,(4)政府関係者や多方面の専門家が,健康問題等についてコミュニティレベルで住民と継続的に対話を行うこと,(5)福島県ががん死亡率の最も低い県を目指すべきである,と5つの提言を行っている(同19〜20頁)。 △ページトップへ 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会 〒612-0066 京都市伏見区桃山羽柴長吉中町55−1 コーポ桃山105号 市民測定所内 Tel:090-1907-9210(上野) Fax:0774-21-1798 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