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★ 「原告と共に」No.43  2023年4月発行 

● コンテンツ

京都訴訟は年内結審の可能性も 〝上に倣え〟判決の流れを止めよう


      

3月2日に第17回を迎えた原発賠償京都訴訟の控訴審ですが、結審が予想していたより早まる可能性が出てきました。次回が6月6日、次々回が9月26日と決まりましたが、弁護団によると進行協議で裁判長が「9月26日は口頭弁論があるとは限りません」と言ったそうで、本人尋問&証人尋問か、結審のどちらかの可能性があるとのこと。

 3月10日にはいわき市民訴訟控訴審(仙台高裁)の判決がありました。昨年6月17日の最高裁の不当判決後はじめての高裁判決でした。判決は、「本件事故が発生するまで、8年2か月もの間、経産大臣が技術基準適合命令を発しなかったことは、…原子力基本法の基本方針に反し、電気事業法に違反する違法な不作為であったと認められる」としながら、命令を発していれば必ず重大事故を防ぐことができたと断定することはできないとして、結局は〝国の責任は問えない〟とする最高裁判決(多数意見)に従ったのでした。

そして14日のおかやま訴訟判決(岡山地裁)、南相馬市の小高区と鹿島区の集団訴訟判決(いずれも福島地裁)も国の責任を否定するものでした。

こうした下級審の〝上に倣え〟の流れを何としても断ち切らねばなりません。

 支援する会としては、国の責任を断罪し区域外避難者の損害を認めさせるために、①最高裁の不当判決批判と国際人権法の観点(支援の施策に関しては「強制避難」と「自主避難」の区別はない)を盛り込んだ第2次公正判決署名を新たに作り、署名集めに全力で取り組むこと、②あらゆる手を尽くして残る期日の傍聴席を満杯にすることを決めました。

早速3月11日に京都の円山公園音楽堂で開催された「バイバイ原発3・11きょうと集会」に8名の原告がそれぞれ「最高裁判決を覆す!」の1文字を書いたパネルを持って登壇し、リレーアピールで支援を訴え、支援する会スタッフは、会場入り口で第2次署名集めに取り組みました。

署名の数と傍聴席満杯で社会的注目度を示していかねばなりません。いっそうのご支援をお願いします。


●3/2 控訴審第17回期日報告集会

3月2日、原発賠償京都訴訟の控訴審第17回口頭弁論が開かれました。

 ◆ 研究報告会開く

 この日、12年目の3・11が目前だということもあり、午前中に報告集会と同じ会場(中央公会堂小集会室)を使って、福島出身あるいは福島原発事故を研究テーマにしている大学院生たちによる研究報告会「原発事故に向き合って考えたこと」を開催しました。詳細な紹介はできませんが、報告者とタイトルを紹介しておきます。

 ・明智礼華さん「放射能大災害と文化遺産とのかかわりについて」

 ・大川原拓真さん 「『選ばれる地域』再考 辺境と外国人技能実習生」

 ・金本暁さん「ポストモダン哲学から考える原発と避難者」

 ・佐久川恵美さん 「福島原発事故を語れる場について」

  この報告会には、会場で10数名、ZOOM40数名の参加がありました。


 ◆ 傍聴席満杯ならず

 今回は裁判所から、傍聴席は80席、抽選はせず先着順で傍聴券を渡すとの連絡がありました。抽選券と違い、傍聴券には通し番号が振ってないので、正確な数はわかりませんが、70人超の傍聴があり満杯に近い状態にはなりましたが、残念ながら満杯は実現できませんでした。

 原告側が今回提出したのは国と東電に対する「求釈明申立書」だったため、プレゼンはありませんでした。次回期日は6月6日(火)14時30分、次々回期日は9月26日(火)14時30分と決まりました。

 閉廷後は、場所を中央公会堂小集会室に移して、報告集会を開催しました。

 ◆ 報告集会の様子

報告集会には、会場に50数名、ZOOMで20数名、合わせて80名弱の参加がありました。

 〈あいさつ〉

 ・川中宏 弁護団長
 終盤のせめぎ合いというか、駆け引きの段階に来ている。これから裁判所に向けて勝訴判決を出すような雰囲気づくりの攻勢を強めていかなければならない時期に来ていることを今日の法廷で痛感した。弁護団はもちろんのこと、原告団そして支援する会のみなさまのお力をお借りしながら、取りこぼしのないように攻めていきたい。

 ・平信行 支援する会共同代表
 私は「京都被爆二世・三世の会」の代表をしており、その活動を少し紹介して挨拶に代えたい。
 いま一番力を入れているのは、私たち被爆二世・三世の健康問題、健康障害にどのように対策を取っていくのかということ。二世・三世の健康問題は放射線が世代を超えて遺伝的に影響するかどうかという問題だ。これはヒロシマ・ナガサキの被爆者だけの問題ではない。原発事故の被害者のみなさんもそうだし、世界中を覆ってきた核実験の被害者もそうだ。また絶えず被ばくのリスクを抱えながら原発で仕事をされている人たちのことも一緒に解決していく必要があると思っている。

具体的には、この2年間ずっとアンケート活動をやってきた。これから集計をして一定のまとめをして、二世・三世の健康問題はこうであったんだと社会的に報告できるようにしていきたい。この裁判と同じくらいのタイミングで次のステップを見出していけるんじゃないかと思っている。

  〈国連人権理事会での活動〉

 ・原告・園田さん
 国連といってもさまざまな機関があって、まったく別の役割を行なっている。その中で人権理事会、人権条約機関は私たち市民社会の声を直接届けることができる。結果、市民の声が反映された勧告が出たり、情報提供が要請されたり、他の機関とは違う、国連機関の中でも特殊な役割を担っている。

京都訴訟は私を送り出してくれて、皆さんの支援のもとに現在まで続けることができている。人権理事会には2つのシステムがあって、1つが普遍的定期的審査(UPR)、もう1つが特別手続きといって、昨年皆さんの協力を得て国内避難民の人権に関する特別報告者のセシリアさんが日本に来て、原発事故避難者がどういう状況にあるのかを調査をした。調査の最終日に簡単なまとめが発表された。いかに国内で活用していくかがこれからの課題になる。そして6月の人権理事会の本会議で、結構な分量になると思うが日本を調査した報告書が発表される。これが特別手続きという仕組み。

先ほど名前の出た健康に対する権利に関する特別報告者グローバーさんを訪日させなさいという勧告が出たのが2012年のUPRでの第2回日本審査だった。2017年には4つの国から勧告が出た。そして昨年11月から12月にかけて第4回目のUPRが始まった。そこに私も行って各国の政府代表者の方々に避難者や被害者や汚染水などさまざまな問題を話してきた。

 そうした経過を経て、今年の1月30日に115か国が300の人権侵害に関する、日本への勧告を出した。福島原発事故関連の勧告が16出て、うち11が汚染水関連だった。これは汚染水を放出することが環境にどう影響があるかということではなくて、太平洋の国々からリスクがあることをするのは人権侵害なんだということで出された。

 5つの国が避難者や被害者に対して支援を続けなさいという勧告を出した。その各国が日本への勧告を発表した場で、今福という日本政府の代表が「日本は区域内、区域外の避難者の区別はしておりません。今後も区別をすることはありません」と言った。

 私たちは日本政府が人権理事会ではこう言っているということを日本国内でも広げていく必要がある。同じ国連機関であるアンスケア(国連科学委員会)が記事になるのに、UPRでの対日勧告がなぜ記事にならないのか。日本国内で人権というものについての考えがあやふやで、人権意識が根付いていないことに原因があるのか。そこは国内外で声をあげていって、報道もしてほしいし、裁判長にも知ってほしい。来週にはまたジュネーブに行って、本会議にも参加してくる。ジュネーブ大学とチューリッヒ大学で講演を依頼されているので、お話もしてくる。皆さんの支援があるから活動を続けられている。

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 〈院生ズの研究報告会〉

 ・明智さん
 〝院生ズ〟というのは、この京都訴訟をきっかけとして繋がった大学院生・研究者の集まり。今日の午前中に院生ズの5名がそれぞれの研究を報告した。

 私は「放射能大災害と文化遺産のかかわりについて」と題して話をさせてもらったが、報告して感じたのは失われた文化財を調べるのはしんどいなという思いと、それでも失われたものを残したいなということ。歴史学が専攻なので、放射線の歴史とかにも興味を持っているが、マリー・キュリー夫人の時代から人体に浴びていい許容量は段々下がってきたはずなのに3・11で上がってしまって、それは歴史的にみてどうなのかということを勉強していきたい。今日は院生ズにこういう機会を与えてもらい、感謝している。
 
 ・佐久川さん
 午前中に報告をさせていただいた。私は、福島原発事故を話せる場をどうやってつくれるかという視点から報告をさせてもらった。福島原発事故でいろんなものが傷つき、いろんな被害があって、文化とか歴史とか暮らしとかいろんなものが傷ついてるからこそ、一人ひとりの視点で考えていくということが大事だと思う。これからも院生ズでやっていって、考える場を広げていけたらいいと思う。




       

 〈原告の感想・決意〉

 ・河本さん
 結審がもしかしたら早くなるかも知れないと田辺先生が仰っていたし、あと何とか1年くらいで結審に向かう予定なので、私も期日は参加して頑張って行こうかなと思っている。

 ・明智さん
 今日は私たち避難した子どもたちにバイオリンを教えてくださった先生も応援に来てくださって、皆さんのご支援は本当にありがたいなと思っている。明後日に福島県立医大でおかしなシンポジウムがあるということで、明日はそれに対抗するシンポジウムが行なわれるそうだし、状況がどんどん動いていくのかなと思う。

 ・川崎さん
 今日は国際人権とか人権の話がたくさん出ていたが、この12年間、ずっと人権って何かなって考えながら来たように思う。まず向こうに居た頃、そしてこっちに来た頃もそうだが、例えば「放射能は危ない、危険だ」と言うと、「そんなことは言うな、差別されるから言うな」というような圧力がかかった。あるいは「あの人の被害の方が大変なんだから、私の被害くらい我慢しなくちゃいけない、言っちゃいけない」と自分に自分でかける圧力もある。

 そういうことってどうして起こるのかをずっと考えていて、やっぱり人権意識がないから人の人権を傷つけても何とも思わないのではないか、自己犠牲とか「我慢は美徳」という意識は払拭しないといけないんじゃないかと思うようになったが、国際人権法に出会って、それは正しいとますます思っている。結審まで1年切るかというところまで来たんだけど、沈黙は敵だと思うので、これからも空気を読まずに言いたいことを言っていきたい。

      

 ・福島さん
 区域内と区域外の垣根を越えた闘いというか、そういう状況になってくると思っているが、1つ懸念していることがある。区域にかかっている人には健康に対する保障があって、来年度から南相馬では(支援額を)減額していくことになっている。住宅問題もそうだったが、無償提供から有料化され、今はもうケアがないという形に持っていかれている。そういう保障が無くなっていくと区域内も区域外もなくなるが、私たちには被爆者援護法のような法律の後ろ盾がないので、一度なくなると再度築くのは難しい。

傍聴カードを作り、それに原告がメッセージを書いたものを今日配らしてもらった。結審まで集めていただいて、それが抽選券になっていいものが当たるというようなことを考えているのでお楽しみに。辛いこともあるが、楽しく裁判闘争をやりたい。

 ・小林さん
 さっき川崎さんが人権のことを話されたが、私は裁判に関わるまで人権のことを考えたことがなくて、言葉は知ってたけど「人権ってなに?」みたいな感じだったが、人権って奥深いなって思った。特に女性が自分の権利を主張することを日本では押さえつけられている。「生意気だ」とか悪いことをしている人みたいに言われる風潮がある。私たち区域外避難者は、「福島市には普通に人が住んでいるのに、なんでことさら被害があるようなことを言うんだ」と風評加害みたいに言われることがある。福島へ帰っても、「えっ、まだ避難してるの!」と言われたりもする。これはおしどりマコさんからの受け売りだが「私の人権を守ることはあなたの人権を守ること」―これは本当だなって思う。今まで人権のことを考えて来なかった人でも、ある日突然自分の人権を蹂躙され、奪われる時が来るかも知れない。でも、私たちの裁判が勝ったら、国や東電は責任を取るし、人権侵害を受けるリスクも少なくなる。この裁判では、皆さんの支援が必要だし、もっともっと多くの人に人権について考えてほしい。

 ・池田さん
 上手にしゃべれないので、法廷で思っていたことを話す。田辺弁護士が東電の代理人に話しておられたIAEAのこと、カッコいいなと思って聞いていた。よくわかんないくせに、報告集会で理解しようと思って…。また勉強しに来る。

 ・水田さん
 ここに来ると、「自分は一人じゃない」って、たくさんの仲間がいて、たくさんの味方がいて、本当に元気づけられる。

 ・萩原さん
 午前中、院生ズの佐久川さんが「誰かにとって都合のいい私にならない」「私を透明人間にしない」とおっしゃった言葉が胸に刺さった。本当に避難してきてから、この言葉をすごく意識した。私たちの声がなかったことにされ、私が受けた被害が「そんなの、あなたの気のせい」と言われて。ホールボディカンターを受けた時にも「すべての食品は測っているから大丈夫です」とモニターを見せられて「全部測ってるでしょう」って言われたが、「これはすべての放射線核種を測ってるんですか」と聞いたら、「いや、セシウムしか測れません」と言われ、「なんだ。やっぱりそうだったんだ」と思い直した。これは皆さんに学ばせてもらったので、信じ込まされずに済んだ。ずっと福島に居て、行政の話しか聞かされない人はコロッと騙されてしまい、「誰かにとって都合のいい私」になってしまうだろうなって思った。

 ・園田さん(ZOOM)
 期日のたびにみんなのお話が聞けて、ホッとする。6月もたぶんZOOMになると思うが参加したい。 

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 このあと関西訴訟原告の菅野さん、太田さん、千葉訴訟原告の瀬尾さん、千葉の支援する会の山本さん、九州訴訟原告の内藤さんからアピールを受け、最後に支援する会の奥森事務局長から今後1年の行動について提起がありました(6面に掲載)。


 ◆報告集会参加者の感想から

・10余年前の子ども達が原告、研究者となっている姿は色々とかんがえさせられますね。若い人たちに背負わせる責任とともに伝えていく事の大切さを感じます。

・原告の方々一人ひとりの訴えが興味深く共鳴しました。弁護団の報告はいつも学びがあります。何回かZOOM参加だったけど、やっぱりリアル・対面がいいと思いました。

・原告の方々の粘り強さに敬服しています。明るく楽天的に楽しみを入れながらやっているようですので頼もしく思います。

・耳が遠くなってきたので理解できないときもあるのですが、原告のアピールにはいつも心を打たれています。傍聴はこれからも続けたいと思います。

・弁護団報告は充実した内容でした。

・田辺弁護士のお話よく分かりました。「リスクがあるから逃げる権利がある」という視点、当然だとあらためて思いました。「高裁」勝てる。心強いです。

・とてもいい場だと思いました。初めて来ても裁判がどこまで進んでいて、原告のお一人お一人の方の話を聞けて連帯と暖かさがある場で参加してよかったです。

・法廷でわからなかったことを田辺先生の説明で理解する事ができた。川中団長や奥森さんの「ここが正念場」という話にぐっときました。

・報告会に来れてよかったです。人の血が流れている気がしました。

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●弁護団報告 

 ・田辺保雄・弁護団事務局長

 ◆国とのやり取り
 最高裁判決は〝水密化(防水)の知見がなかったから結果回避可能性は期待できなかった〟という変な判決を書いた。それに対して、「実際は水密化をやっていた」「この証拠を見たら、そんなこと言えないでしょ」と森田弁護士が前回プレゼンをした。

国から反論書面が来たが、少し説明したい。原発を運営している国々はだいたいIAEA(国際原子力機関)に加盟して、そこが出しているセーフティガイドに基づいて設計することになっている。セーフティガイドには法的拘束力はないが、原子力安全条約に日本は加盟していて、そこには「最新の知見を集めた指針を認識して条約を結ぶ」と書かれている。それを見れば、セーフティガイドのことだと分かるし、それが安全に関する最新の知見だということも分かっているはずだ。しかも、セーフティガイドを作る時に加盟国は原稿を見せてもらってコメントを付けられるというルールになっている。さらに驚くべきことは、原案を作っている委員会に日本人の研究者、政府の外郭団体の職員が入っている。言ってみれば、自分たちで作って自分たちでチェックしてという代物だ。これは僕が勝手に言ってるんじゃなくて、政府側の人が論文で残しておられたので、それに基づいて書いた。こうすべきだと言ったんじゃなくて、こういうことがありましたねと丁寧に説明した。国の代理人がその事実について反論書面を出さないと言うから、「じゃあ、事実関係を認めると調書に残してください」と言った。そしたら、その代理人は「今すぐには答えられない」と言う。普通の弁護士なら業界用語で「然るべく」と言うところだ。裁判長もおかしいなと思って、「どういうことか書面で出しなさい」と指示した。

 ◆健康に対する権利
 避難の相当性について、私たちは国際人権法の「健康に対する権利」に基づいて主張してきた。各地で避難の相当性については負け続けている。裁判官は低線量被ばくの健康影響について「リスクはあるけど小さい」と言っていて、証明できていないというのが大前提にある。情報が不確かな中であれだけの大混乱があったのだから一般の人だったら逃げただろう、と心理的理由で逃げることのみ認めている。冷温停止(2011年12月)までという判決が後を絶たないのはそういう理由からだ。

 「これはなかなか乗り越えられないな」と思っていた時に、国連のアナンド・グローバー特別報告者の報告書を読み直してみた。白倉弁護士や園田さんの話を聞いて僕も徐々に理解できて、健康を害されるから逃げるんじゃなくて、害されるリスクがあるから逃げるんだと。法律家は具体的危険がないと危険じゃないと言う。ところが、「健康に対する権利」というのは危険の立証は要らない。「到達可能な最高水準の健康」を求める権利であって、健康である権利とは違うと国際人権法の専門家が言っている。その違いが分かりにくいんだけど、100ミリ未満の比較的低線量の被ばくをした時、健康影響が出るか出ないかというのは実は激論がある。証拠はたくさん挙がっているが推進側の人たちは認めたくない。線量は低くても、線量の増加に比例してがんの罹患率が上昇することはいろいろなデータが積みあがっているが、ICRP(国際放射線防護委員会)はそれを認めてはいない。

だけど、同じ国際機関である社会権規約委員会だとか国連人権理事会のUPRだとか、グローバーさんの報告書では、口をそろえて公衆被ばく限度を超える被ばくをさせるのはおかしいという勧告や懸念が出されている。公衆被ばく限度は年間1ミリ㏜だから、人生100年生きてもほとんどの人は100ミリ㏜には達しない。その1ミリ㏜をちょっとでも超えたら刑罰による制裁までして規制しているのは、リスクを免れるためだ。1ミリ㏜を超えたら健康被害が出るとは言えない。これはリスク、悪いことが起きる可能性だ。東電の代理人は「これは悪いことが起きる立証にはなってない」、本行先生の意見書は証明にはならないと言うが、われわれは「そんなことは立証できなくていい。健康に対する権利とはリスクを免れる権利なんだから」と言っていて、今回も書面に書いた。それが「わからない」と言う。裁判長は分かっていると思うが、東電とはかみ合わない。押し問答していても仕方がないので、本行意見書への反論に対する再反論をしようと考えている。

 ◆今後の見通し
 そんなことがありはするものの、だいたい双方の主張が出揃いつつある。次回6月6日は期日としてやることになっていて、9月26日も押さえられている。ところが裁判長は「9月26日は口頭弁論があるとは限りません」と言った。 だから裁判所の腹づもりとしては、円滑に主張が全部出たら、場合によっては結審してもいいというつもりでいる可能性がある。あるいは、法廷で次回「人証の採否」と言っていたので、弁論ではなくて証人調べをする、原告本人を調べることを考えているのかも知れない。次回の進行協議でははっきりすると思う。

 原告さんの損害額が低いのは、裁判所や法律家のPTSDに対する理解が低いからだと思うので、竹沢先生に証言をしてもらいたいと思っている。原告さんの声も聴いてもらいたいが代表5人に抑えている。これを仮に3人に抑えられ1日で終わっても構わないと思っている。1年以内には終わるつもりで頑張っていきたい。 

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●支援する会からの報告

 ◆第2次署名について

 ・上野・支援する会事務局次長
 午前中はこの場で大学院生の研究報告会があり、12時半から裁判所の東門付近で街頭宣伝をし、途中で署名を提出した。団体署名が5団体、個人署名が301筆、うちメッセージ付きの署名が211筆、連記署名が90筆。累計108団体、個人署名が1万4881筆になった。前回までとくらべて署名の数が少ないのは、この間メッセージ付き署名に力を入れてきたのと署名の文案を変えようと検討していて連記署名に取り組んで来なかったからだ。

去年ひどい最高裁判決が出た。4つの高裁判決のうち3つは国の責任を認める判決だった。それをまとめて最高裁が判断したが、それまで議論されていた争点とか何のために規制権限が国に与えられているのかという法令の趣旨とか一切すっとばして、仮に国が東電に津波対策をしなさいと命じていたとしても事故は防げなかったんだと、だから国に責任はないという判決だった。私たちは規制権限を持っている国が命令を出さなかったこと自体が裁かれるべきだと主張しているが、いったん最高裁判決が出てしまうと、それに追随する下級審が出てくる。前回期日に参加された全国支援ネットの岸本さんが紹介されたように、新潟訴訟が東京高裁に移り、その1回目の期日で裁判長が「責任論はもういいですね。損害論だけやりましょう」と言ったと。これの意味するところは、最高裁判決が出たんだから責任論はそれに従えばいいでしょということ。そういう下級審ばかりになったら、私たちがこうして裁判をやっている意味がないし、内容からいってもあの判決に従う道理もないので、そこがいま1つの焦点になっている。大阪高裁に対しても、自分の頭で考えて判断してくれということを強調した。

もう1つは、京都訴訟の場合、いわゆる自主避難者が大多数を占めているが、国が決めた中間指針では区域内と区域外では賠償額に非常に大きな格差があって、これまでの判決でも中間指針にちょっと上乗せするくらいで来ているが、昨秋京都訴訟も関わって実現した国連の国内避難民の人権に関する特別報告者が来日して調査をして帰国する際に発表したステートメントでは、国際人権法では強制避難民と自主避難民の区別はない、そういう区別に従って施策を決めるのはおかしいという趣旨のことを言っている。

京都訴訟でいま専門家証人尋問をやるかどうかが焦点になっているが、原告が受けた精神的被害をはかる尺度になるアンケート調査をしたら、避難指示区域からの避難者の場合と同等の数値が出て、避難指示のあるなしで精神的被害は変わらないということを意見書で出している。その点が賠償格差を縮めていく大きな要素であるということを主張した。

そういう内容を文案そのものに入れた新しい署名を今日からスタートした。「京都の署名はもうしたよ」という方は多いと思うが、第2次署名という新しい署名なので、過去に書いたかどうかは気にせずに署名に協力をお願いしたい。

 ◆悔いなき取り組みを

 ・奥森・支援する会事務局長
 原発事故から12年、この裁判を提訴して10年。私たちも原告と気持ちを一つにしてこの裁判に正面から取り組んで来て、最終盤の1年を迎えるということをみんなで確認したい。この1年の取り組みで悔いを残さない判決を取って、最高裁に攻めのぼって行けるのか、それとも高裁で変な判決が出て最高裁にものぼれない状況になるのか、10年間必死にやってきた締めくくりがこの1年の取り組みにかかっている。

いま考えているのは2つ。新しいことではない。署名を集めることと傍聴席を満杯にすること、この2つのことを徹底してやり切っていきたい。今日から新署名がスタートした。署名の内容は先ほど報告があったように、私たちはあの不当極まりない最高裁判決は許せない、大阪高裁の裁判官がこれに引きずられて変な判決を出してもらっては困る、だから最高裁判決をはっきり批判する署名にした。

それと、いろんな判決を見ても国際人権法の観点がまったくない。この間、私たちが園田さんと連携しながら、ダマリーさんの訪日調査を実現し、あの素晴らしいステートメントが出て、この6月には分厚い報告書が出る。そういったものを国内で活かしながら、この裁判を勝利に向けて進めていきたいということで、その2点をこの署名に盛り込んだ。これが私たちの勝ち筋だと思っている。第1次署名はいったん終わって第2次署名を全力で広げていきたいと思っている。

もう1つは傍聴席。今回は多くの方に来ていただいたが、傍聴席は埋まらなかった。これまでコロナ下で傍聴を積極的に呼び掛けるのを控えてきたのもあったが、前回も今回も抽選は行なわれなかった。これではあかんと思っている。

次回6月には、本当に多くの人が溢れて抽選が行われ、傍聴席が満杯になるような大きな流れを作っていきたい。第2次署名を裁判所に積み上げて、法廷は傍聴者で溢れてる、そういう雰囲気の中で結審を迎えたいと思うので、支援・協力をお願いしたい。

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●第2次署名集め、頑張ってます!

      

       
 
       

 ◆第2次署名集めにご協力ください!

 支援する会では、3月から第2次公正判決署名に取り組んでいます。年内にも結審が予想される中、短期決戦となります。署名の文面が変わり、旧公正判決署名とは違う署名になったので、すでに署名された方も気にせず署名していただけます。

 署名用紙は支援する会のウェブサイトからダウンロードできます。ぜひ、署名集めにご協力ください。
 (QRコードは会報1面右上)
 http://fukushimakyoto.namaste.jp/shien_kyoto/


 ◆年度内に続々と高裁判決  最高裁闘争の第2ステージへ

 3月10日にいわき市民訴訟の控訴審判決(仙台高裁)がありましたが、他の賠償訴訟の状況をお知らせしたいと思います。

6月20日に東京1陣訴訟控訴審(東京高裁)、7月11日にだまっちゃおれん・愛知岐阜訴訟控訴審(名古屋高裁)、7月14日に新潟訴訟控訴審(東京高裁)がそれぞれ結審することが決まっています。そして夏から秋にかけて千葉2陣訴訟、かながわ1陣訴訟(いずれも東京高裁)、津島訴訟、宮城訴訟(いずれも仙台高裁)、北海道訴訟(札幌高裁)など続々と結審を迎えます。年末から年度末にかけてこれらの判決が続くことになります。

 京都訴訟は年内結審の可能性が出てきたことから半年遅れで追いかけることになりそうです。昨年6月17日に「国に責任はない」とする最高裁不当判決が出た後、立て続けに国の責任を否定する下級審の判決が続いており、6・17判決を覆すことが原発被害者訴訟原告団全国連絡会の全国連絡会の課題となっています。そのためには、①いわき市民訴訟の上告に対する「不受理」を許さず、②後続の訴訟が高裁で勝利判決をかちとり、最高裁に一括審理させることが必要です。

 ◆カンパのお願い

 昨年4~6月の最高裁闘争に京都訴訟からも原告・支援スタッフが交代で参加して交通費の支出が例年以上に増えました。

今年も、6月17日には最高裁不当判決に抗議する大きな集会も東京で予定されていますし、年末の判決ラッシュ時には連帯行動が呼びかけられることが予想されます。京都訴訟としても全国連の一員として、呼びかけられる行動に参加したいと思いますが、そのためには財政的裏付けが必要です。

ぜひともカンパをお願いします。

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●原告だより

 ◆この12年を振り返って今思うこと

 ・原告・堀江みゆき

 私は2011年の8月に福島市から京都市へ避難してきました。避難してきた当初は、次女と次男の高校生活や長女の仕事の心配より、自分自身のことに精一杯で、知り合いもいなければ貯えもなく、私が家族を支えなければと働くことに必死の毎日でした。すべての面で「私が」と自分が大黒柱のように思っていましたが、子どもたちも全員独立し、気づいたらいつの頃からか、親子の立場が逆転していると感じることが増えてきました。また4人の子どものうち、3人が結婚して家族が増えたことを嬉しく思う反面、一抹の寂しさも感じます。

 振り返ってみると、原発事故が起きて、避難するかどうか迷い悩んだ時も、長女と長男は私の力になり支えてくれました。その時から既に私を追い越していたのかもしれません。

高3の夏に転校することになり、最後まで避難したくないと嫌がっていた次女は、結婚式の時に、自分たちのことをよくよく考えて避難したことを今では素直に感謝しているという手紙をくれました。その時の嫌な思いは消えることはないかもしれませんが、ありがとうという言葉を嬉しく思うのと同時に、避難したことは間違いではなかったと改めて思うことができました。

また、次男は、避難して2年目頃に、私の活動に対し、「いつまで避難者やってんだ」と批判めいた言葉を投げかけてきたことがありました。しかし、しばらくすると「頑張ってんじゃん」と陰ながら応援してくれるようになりました。

 どちらも自分の気持ちを整理したり、いろいろ理解したりするまでには、ある程度の時間が必要だったのだろうと思いますが、私自身は、この子たちがいたからこそ、くじけることなく頑張ってくることができました。 

この裁判は、私の他、子ども3人も原告となっています。普段は傍聴もままならず、なかなか関わることのない子どもたちですが、今年のバイバイ原発は、長女と次女が参加してくれました。それぞれ仕事も忙しく、当日まで本当に参加してくれるのか半信半疑でしたが、やらなければならないと思っていてくれていたことを嬉しく思いました。また、いろいろ話をしてみると、様々な社会問題にも関心をもち、政府に意見をメールしたり、パブコメを出したりしていることがわかり、どんなことも鵜呑みにはせず、一度自分で調べているという言葉に感心しました。

 ひとり親の我が家では、ままならないことも多々あったに違いないと思いますが、私が思っている以上に、皆しっかりした大人になり、私の肩の荷もだいぶ軽くなりました。これからは、結審に向けて思う存分動けそうです。間もなく誕生する孫のため、またその次の世代のためにも、最後まで悔いのないよう頑張りたいと思います。

これからも引き続き応援して下さいますよう、よろしくお願いいたします。

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