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★ 「原告と共に」No.18 2017年2月発行 

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● 3〜5月は原告本人尋問!傍聴に来てください!

 1月27日 (主尋問) と2月17日 (反対尋問) に分けて専門家証人尋問が行なわれました。

 原告側証人を引き受けてくれたのは、元国会事故調委員で、高木学校メンバーの崎山比早子さん。17日の報告集会で、崎山さんは「学生時代は疫学が嫌いで勉強しなかったので、弁護団から依頼があってから猛勉強した」とおっしゃってました。

 しかし、証言台の崎山さんは、傍聴者の感想(4面)にもあるように、2時間に及ぶ反対尋問に対しても凛として応答されました。原告側弁護団も緻密な反対尋問で被告側証人を追及し、田辺弁護士をして「今日は成功だった」と言わしめました。

 次回(3月8日)から再び原告本人尋問が始まります。毎回9〜10人の原告が証言台に立ち、朝から夕方までの期日が続きます。いま原告は順次担当弁護士と打ち合わせを重ね、本人尋問に臨む準備を進めています。傍聴席を埋めることで、証言台に立つ原告を応援して下さい。

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● 専門家証人主尋問 第22回期日報告

 1月27日の第22回期日は専門家証人に対する主尋問でした。

 原告側証人は崎山比早子さん(元国会事故調委員。医学博士。高木学校メンバー)、被告側証人は(1)酒井一夫(放射線医学総合研究所・放射線防護研究センター長。国際放射線防護委員会ICRP第5専門委員会委員)、(2)柴田義貞(長崎大学客員教授、元福島県立医大県民健康管理調査事業特命教授)、(3)佐々木康人(湘南鎌倉総合病院付属臨床研究センター・放射線治療研究センター長。元ICRP主委員会委員) の3人。

 午前中は原告側の崎山さん。用意したプレゼン資料に沿って一通り説明したあと、代理人(弁護士)からの質問に答える形で主張すべき点を再確認したり補強するというスタイルで進行しました。

 主な証言内容は以下のとおりでした。

◆放射線傷害の標的(身体の設計図DNAとその合成)
  • すべての細胞に存在するDNA(その科学結合のエネルギーは5〜7eV) に放射線 (1万5千〜2万eV)が当たると、そのエネルギー量の差によってDNAは簡単に切断されてしまう。
  • 切断されたDNAは修復される場合もあるが、修復できず老化したり、間違った修復から突然変異が起こり発がんに至る場合もある。
  • 被ばくに伴う発がん数やがん死亡率は被ばく線量に比例し「しきい値」は存在しないことがさまざまな研究調査によって明らかになっている。
  • 放射線作業従事者の5年間の累積線量を調べた疫学調査では全体の65・4%が0・7ミリSv、83%が20ミリSv未満だった。
◆放射線防護
  • ICRP1990年勧告における公衆被ばく限度(年間1ミリSv)は「超えることが容認できない線量」とされている。
  • 1ミリSv数値はそれが安全量だからではなく、「合理的に達成できる限り低く保つ」という原則(ALARAの原則)に沿って、放射線障害と社会的コストを考慮して決めたもので、その影響を減らすためにあらゆる合理的な手段をとることを目指すとされている。
  • ICRPのいう1ミリSvは外部被ばくだけでなく内部被ばくも含む(その合計)。
  • チェルノブイリ法では、年間5ミリSv以上の地域は強制避難となり、年間1〜5ミリSvの地域には「避難の権利」が与えられた。
  • 以上を踏まえると、避難という選択は被ばくを減らす賢明な方法だ。いま政府が進める帰還政策は現在の被ばく線量よりも線量を高めるものであり、そのような政策はICRPの放射線防護体系にも見当たらない。
◆疫学調査結果
  • 「低線量被ばくのリスクに関するワーキンググループ」(被告側証人の酒井一夫、佐々木康人はこのWGメンバーだった)の報告書は、「国際的な合意では、放射線による発がんのリスクは、100ミリSv以下の被ばく線量では、他の要因による発がんの影響によって隠れてしまうほど小さいため、放射線による発がんリスクの明らかな増加を証明することは難しいとされる」と記述しています。
     →これに反論するために、主尋問ではこれまでに明らかになった世界各地での低線量被ばくによるがんや白血病の疫学調査の結果が取り上げられました。
  • さらにICRPは同じ線量でも一度に全量を浴びた場合(原爆被爆者)の方が長期間にわたって少しずつ浴びる場合(福島原発事故による被ばく)よりもリスクが大きいとし、低線量率(後者)のリスクは高線量率(前者)のリスクの2分の1と見積もっています。
     →しかし、世界保健機構(WHO)や国連科学委員会(UNSCEAR)、欧州放射線防護委員会(ECRR)はその比率を1:1と見ており、世界各地の疫学調査の結果でもICRPを支持するものは一つもなく、むしろ低線量率の方が高い場合もあったと証言。
◆県民健康調査、甲状腺がん
  • 甲状腺がんの多発について被告らは 「スクリーニング効果」 として否定されているが、二巡目の検査で悪性がん(またはその疑い)とされた68人のほとんどが一巡目の検査ではA判定とされており、新たに発がんしていると考えられる。
  • また放っておいても症状の出ないがんまで過剰に診断しているとの言い訳については、手術症例のうちリンパ節への転移が74%、甲状腺外への浸潤が40%だった(過剰診断とは言えない)。
  • 日本甲状腺学会の「甲状腺腫瘍の診療ガイドラインQ&A」には「甲状腺がんのリスクファクター」として、「放射線被ばくは明らかなリスクファクター」「一部の甲状腺がんには遺伝が関係する」とあり、「これ以外に科学的に立証されたリスクファクターは今のところ存在しない」とあるように、多発の原因は放射線被ばく以外には考えられない。
  • 低線量でもリスクはあり、リスクを避けるために避難することは妥当な選択だ。
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● 専門家証人反対尋問 第23回期日報告

 2月17日に行なわれた京都訴訟第23回期日では、専門家証人に対する反対尋問が行なわれました。

 低線量被ばくと健康への影響に関して専門家証人が証言台に立つのは全国でも初めてのことであり、全国的にも注目されています。難しい内容にもかかわらず多くの支援者の方が詰めかけてくださり、抽選となりました。
 日頃から連携して裁判を進めている関西訴訟弁護団との協議で、原告側の崎山比早子証人に対する主尋問は京都弁護団が担当し、被告側証人への反対尋問は大阪の弁護団が担当するという役割分担をしたそうで、大阪の加藤弁護士、西念弁護士、柳弁護士の3名が尋問に立ちました。

 午前中は、原告側の崎山証人に対する反対尋問でした。崎山証人は約2時間立ちっばなしで、堂々と尋問に応じられました。

 原告側代理人が最も時間をとって尋問したのは、元福島県立医大特命教授だった柴田義貞証人。論点はいろいろありましたが、みなさんにも馴染みのある「しきい値」問題と福島県民健康調査に絞って紹介します。
  • 被告側の連名意見書が、崎山意見書の「原爆被爆者の死亡率に関する研究」(LSS)14報の評価は「明らかな誤りだ」と批判している点を取り上げました。崎山意見書が引用した「ゼロ線量が最良のしきい値推定値であった」は「要約に書かれたもので、本文とはニュアンスが違う」と主張しているのに対し、証人に本文を示しながら要約と違うことが書かれているわけではないことを確認していきました。反論できない柴田証人は、最後には「最良と書くなら、どういう意味での最良なのかを書かないといけない」などと14報の著者である小笹晃太郎氏にいちゃもんを付ける始末でした。
  • 福島県民健康調査について、被告側は甲状腺がん多発の原因についてスクリーニング効果だと言っています。柴田証人は、「これだけの甲状腺がんが見つかると予想されたか」の問いに「予想された」と強弁。「事前の説明には予想されるとは書いていないではないか」の問いには 議論はされたと思う」と筋違いの答弁。「予想されたのなら、そう説明しておかないと却って不安を与えるのではないか」との問いに明確な反論はありませんでした。
  • 崎山意見書が先行検査(1巡目)でA判定とされた子どもから本格検査(2巡目)で甲状腺がんが見つかる例が多くあったことを指摘したのに対し、前回の主尋問で柴田証人は1巡目でB判定とされたものが2巡目でA判定に戻った例もあったと証言しました。これについて「いったん甲状腺がんと確認されたものが、2巡目でA判定に戻った例はないですね」との問いには「はい」と答えるしかありませんでした。
  • チェルノブイリ事故の時も当初はスクリーニング効果だと言われ、その後放射線によるものと確認されましたが、その論争に「決着をつけた」のが実は柴田証人もかかわった調査報告書でした。事故後に生まれた子どもをスクリーニングしたところ、甲状腺がんは一人も見つからなかったのです。「決着をつける調査がされていない段階で、放射線の影響ではないとは言えないのではないか」の問いには「チェルノブイリと福島では被ばく線量が違う」、「本格検査の結果はスクリーニング効果では説明がつかないのではないか」の問いには「画像に出ない場合もある」などの苦しい言い訳しかできませんでした。
 佐々木康人証人には、ICRP(国際放射線防護委員会)勧告の「公衆被ばく限度=年1ミリSv」や「現存被ばく状況」などについて尋問。この中で佐々木証人は、「公衆の被ばく限度は現存被ばく状況では適用されない」と述べ、参考レベル(年1〜20ミリSv)について「規制のための数値ではなく、防護の最適化を行なうための指標、目安である」と言いながら、「勧告の対象は、国や電力会社ですね」との問いに「いや、一般的に述べている」とそれを認めず、最後は「公衆も含めて」とまで言いました。これは、なんとか法令による公衆被ばく限度を打ち消したいということなのでしょう。

 最後に崎山証人への再主尋問があり、崎山証人は国連科学委員会(アンスケア)について証言。アンスケアは純粋に科学者が集まる通常の国際学会とはまったく違うもの。ICRPは電力会社の支配下にあるが、その委員とIAEA(国際原子力機関)、アンスケアの委員は兼任している人が多い。ゴンザレスはすべて兼ねている。この3つは密接に繋がっている。チェルノブイリの小児甲状腺がんについてもアンスケアが認めたのは事故から14年後の2000年になってからだった。これに対して、再主尋問を要求した国側代理人からはそれに対する反論は一切なく、裁判長から「アンスケアについては尋ねないんですか。そのために許可したのに」 と皮肉られる有様でした。

 報告集会には反対尋問に立った大阪の弁護団も出席し、それぞれ自分の担当した尋問について解説。崎山証人への再主尋問を担当した京都弁護団の田辺事務局長は「本当はアンスケアの話はしたくなかったんですが、昨夜崎山先生の方から逃げていたらだめだと言われました」と裏話を披露。「今日の反対尋問は成功だったと思う」と総括されました。最後に川中弁護団長が「なんと言っても、再主尋問での崎山先生の気迫がすごかった。今日で大きなヤマを越して、より一層明るい展望が見えてきた」とまとめられました。
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