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★ 「原告と共に」No42  2023年1月発行 

● コンテンツ


●12/7控訴審第16回期日開く 次回は傍聴席を満杯にしよう

    

 
12月7日、京都訴訟の控訴審第16回口頭弁論が開かれました。当日は、12時30分に大阪高裁の東門付近で宣伝行動を行ないました。原告がマイクを握り、6月17日の最高裁判決批判と原発賠償京都訴訟への支援を訴え、支援者は散らばってチラシを配り公正判決署名への協力を呼びかけました。

13時で宣伝行動を終え、原告と支援者で、第12民事部へ行き、第5次集約分の署名を提出しました。団体署名が15団体、個人署名が1697筆で、それぞれ累計は103団体、14580筆となりました。今回の特徴は、力を入れて取り組んだ大阪高裁の裁判官宛てのメッセージ付き署名が229筆も集まったことでした。

 そのあと原告と支援者で入廷行進を行ない、正門から大阪高裁に入り直しました。今回は直近になって抽選なしとの連絡が入り、先着順でしたが、宣伝不足かコロナの影響か、80席の傍聴席に対し、傍聴者は約50名でした。

 法廷では、原告側代理人が6月17日に出された先行4訴訟(生業、群馬、千葉、愛媛)に関する最高裁判決(国の責任を認めず)を批判する2つのプレゼンを行ないました。1つは、2003年に発表されたIAEA(国際原子力機関)の安全指針にすでに防潮堤以外に防水(水密化)が推奨されていたこと、その指針の執筆陣に東電の酒井という社員が加わっていたことを明らかにしたもの(鈴木順子弁護士)、もう1つは、もし防潮堤を建設していたとしても津波の浸水を防げなかったとした最高裁の判断の間違いを指摘したもの(森田基彦弁護士)でした。

 今後の期日日程については、次回が3月2日(木)、次々回が6月6日(火)のいずれも14時30分開廷と決まりました。

 閉廷後、中央公会堂大会議室で報告集会が行なわれました。報告集会の様子とプレゼン用紙を4面~7面に掲載しています(それぞれの発言を事務局の責任でまとめました)。

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●年頭のごあいさつ
 
 ◆支援する会のみなさまへ

 ・原告団共同代表 萩原・福島・堀江 

支援する会の皆さまには、昨年もひとかたならぬご支援を賜りましたことに感謝申し上げますと共に、寒中お見舞い申し上げます。

東日本大震災・原発事故から12年目の年が明け、また同じ干支が巡ってきました。当時子どもだった人たちも大学生や社会人となり、改めてこの年月の長さを痛感します。昨年から、京都訴訟原告の大学院生を中心に、他訴訟の若い世代の方や傍聴に参加して下さる大学院生の方たちの交流が始まっています。事故当時子どもだった世代が感じた原発事故、裁判のことや避難したこと等の話の他、これから自分たちができることは何かを話し合い行動に移していくようです。なんて頼もしく楽しみなことでしょうか。あらためて私たち親世代も、ともにこの裁判を最後まであきらめることなく闘わなければと、気の引き締まる思いです。

一方、政府は原発新規建設や運転期間の延長を発表したり、汚染水の海洋放出の理解を促進するテレビコマーシャルを放送したりと、原発事故を軽視しているかのように思えてなりません。

また、原子力損害賠償紛争審査会による中間指針の見直しも十分な内容といえるものではなく、区域外避難者の多い京都訴訟原告としては、大阪高裁で国と東電に責任を認めさせ謝罪させることはもちろんですが、避難の権利を認めさせて、子どもと生きとし生ける物たちの未来を守るために必ず勝利しなければならないと思います。

終盤のこの1年、原告も一致団結して悔いのないようにやり切りたいと思いますので、一層のご支援をよろしくお願いいたします。


 ◆今年は勝利に向かってラストスパートの年です

 ・弁護団長 川中宏弁護士 

皆さん、明けましておめでとうございます。
 今年はあの原発事故から12年、裁判を起こしてから10年になります。本当に長い間たたかいつづけて来たものです。この間の原告団と「支援する会」の皆さまのご奮闘とご労苦にあらためて心から敬意を表します。

今年は、その労苦が報われる勝利の年にしなければなりません。

 6月6日に予定の期日で双方の主張を終え、秋からは当方申請の学者証人と原告代表の尋問をすませて一気に結審、そして判決に持っていきたい。東電や国は抵抗するかもしれませんし、裁判所もたじろぐかもしれません。しかし弁護団、原告団そして「支援する会」が力を合わせ、一体となって勝利に向かって突き進みましょう。最高裁は昨年6月、国には賠償責任がないとする、驚くべき判決を出しました。私たちは、大阪高裁の判決でこの最高裁判決の壁を打ち破り、明確に国の責任を認めさせなければなりません。

 皆さん、たたか8いは「まさにラストスパートのときを迎えています。勝利をめざして、お互いにあとひと踏ん張りがんばり抜きましょう。
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●原陪審が「中間指針」第5次追補を決定

 最高裁が昨年3月に、「中間指針」を上回る損害賠償を認めた7つの集団訴訟の高裁判決について、東電の上告を退けたことにより判決が確定しました。これを受けて、原子力損害賠償紛争審査会は「中間指針」の見直しを検討してきましたが、12月20日に第5次追補を決定しました。

 旧指針で1千万円とされた帰還困難区域の住民への加算額のうち700万円は「生活基盤(ふるさと)喪失による精神的損害」であることを明記し、新たに居住制限区域および避難指示解除準備区域については「生活基盤(ふるさと)変容による精神的損害」(1人250万円)を、緊急時避難準備区域にも同損害(1人50万円)を明記。

 これ以外に、相当量の線量地域(計画的避難区域および特定避難勧奨地点)に一定期間滞在したことによる健康不安を基礎とする精神的損害が新設され、子ども・妊婦は1人月額6万円を10か月分(2011年12月末まで)、それ以外は3万円を10か月分とされました。

 先述の高裁判決では自主的避難等対象区域以外の地域からの避難の相当性を認めたものもありましたが、同対象区域の拡大はされませんでした。第1次追補で「事故発生当初の時期の損害」として8万円とされた子ども・妊婦以外について、子ども・妊婦と同じように12月末までの損害を認め20万円に変更されました。

 避難指示区域外からの避難者が多い京都訴訟ではPTSD(心的外傷後ストレス障害)のアンケート結果の比較などから「強制避難」と「自主避難」の精神的被害に大きな格差はないことを主張してきました。9月~10月に「国内避難民」の調査のために訪日された国連特別報告者ヒメネス・ダマリーさんも、「調査終了後のステートメント」において、援助や支援について「強制避難」と「自主避難」とを区別をしてはならないと強調しています。

 しかし、今回の見直しにおいては、避難指示区域内外の格差を是正するどころか、むしろ拡大させており、区域外避難者から見れば、極めて不十分な内容となっています。

 一方で、「指針が示す損害額の目安が賠償の上限ではない」、「対象区域として明示されなかった地域が直ちに賠償の対象とならないというものではなく、個別具体的な事情に応じて相当因果関係のある損害と認められるものは、全て賠償の対象となる」と明記されました。

 いろいろ不十分な点はありますが、7つの高裁判決の内容が一定程度反映されたことや東電の「中間指針が上限」との主張に釘を刺したことなどは、裁判闘争の成果と言えるのではないでしょうか。

 見直しはこれで終わった訳ではありません。3月10日のいわき市民訴訟控訴審判決(仙台高裁)を皮切りに、秋から年末にかけて千葉2陣訴訟と東京訴訟の控訴審判決(いずれも東京高裁)が見込まれ、それにかながわ訴訟、京都訴訟が続きます。

これらの訴訟で、国の責任はもちろん、損害発生区域の拡大や賠償すべき損害額の増額を認める判決をかちとり、それを政府に突きつけ、指針の抜本的見直しを迫っていかなければなりません。

 最後までご支援のほどよろしくお願いします。


●12/7控訴審第16回期日報告集会

 ・弁護団あいさつ  川中宏弁護団長

最高裁判決の批判を森田弁護士が非常にわかりやすくプレゼンしてくれた。結局、この最高裁判決は高邁な理論があるわけではなく、事実認定の誤りだ。水密化の問題も津波の襲来の方向についても誤った事実認定をしているので、それは最高裁判決の弱みだ。今後、高裁判決でどんどん覆って行くだろう。

 ・橋本宏一共同代表(国民救援会京都府本部事務局長)

今日は東門での宣伝行動から参加した。
 裁判は法廷の中だけではなくて、外で国民が裁判をどう見ているのかを示すことが大事だ。署名集めは必ず会話をしなければならないので、多くの市民の方が原発賠償についてどう思っているのかという会話が成立する。

今日、法廷が始まる前に原告と支援者で第12民事部に行って、署名を提出した。その際に、「この署名には皆さんのメッセージが込められているので、ぜひ裁判官に読んで頂くようお伝えください」と言葉を添えた。


●弁護団報告
 
 ・田辺保雄弁護士
  今日の進行協議で、来年6月まで期日指定され、それまでに「出すべき書類は全部出してください」という訴訟指揮があった。これは、裁判官が結審を考え始めた証拠だ。

 今日鈴木先生がプレゼンをしてくれたIAEA(国際原子力機関)の安全指針に関する準備書面は京都訴訟が初めて出すものだと思う。最高裁は国の主張に乗っかって、いわゆるドライサイト論(防潮堤以外の津波対策はなかった)を前提に判決を書いた。出だしから間違っていることを説明した。

 2011年の改訂版の執筆陣に日本人もいて、東京電力の酒井の名前がある。この人は東北電力などに「新しい知見を取り入れないようにしてくれ」と働きかけた人。他にも巨大津波は予見できなかったと証言した研究者が名前を連ねている。知らなかったとは言わせないというのがポイントだった。


 ・森田基彦弁護士

最高裁判決は結果回避できなかったという。津波浸入対策としては、①防潮堤と②浸水した場合を想定した水密化、高所化の2つある。

防潮堤に関しては、東電が検察庁の取り調べに応じて事故後に作った防潮堤の設計図(水面から22mの箇所もあれば12.5mの箇所もある)を持ち出して、そういうギザギザの防潮堤を造っていたとしても浸水を防げなかったというのが国の主張で、最高裁はそれに乗っかった。

また判決は、防潮堤で防ぐのが一般的で水密化等については議論されていなかったという東電や国の主張を採用したが、国も関与した場で水密化の議論がされていた事実をこれでもかと提示した。


 ・白土哲也弁護士

損害班では、東電が、「そもそも法律上保護された権利侵害はなかった、避難継続の相当性はなかった」と各原告の陳述書に個別に反論をしてきたのに対して、世帯ごとの再反論作成に取り組んできた。

すべての原告世帯に担当弁護士が連絡をとり、事実を確認するなどして、再反論を作成する。そういう作業を1年以上やってきて、今日でほぼ提出できた。

一審の裁判官には全世帯の原告の声を聞いてもらったが、高裁では何人かをピックアップして裁判官に直に話を聞いてもらう機会を設けようと取り組んでいる。

 ●国とのやり取りについての補足説明

 ・田辺弁護士

 法廷での国とのやり取りを説明しておきたい。東電は最初の頃は、「中間指針を超える損害はない」と言っていた。2年くらい前から「払い過ぎだ」、「自主的避難等対象区域の人たちに賠償をもらう資格はない」と言い出した。

 さらに国がこの東電の主張を援用すると言い出した。そういう状況を皆さんにも知ってもらうために法廷で質問した。

 原賠審はいま中間指針の見直し作業に入っているが、その席に担当副大臣(文科省)が出席して、「中間指針を超える損害はないというようなことを言うのは良くない」という趣旨のことを喋っている。これと国の代理人が東電の主張を援用するというのはまったく矛盾する。

これについては求釈明申立書を出し、説明を求めていく。


●原告あいさつ

         

 ・川崎さん

 今日はチラシを配る所から参加した。淀屋橋でやっている時よりも、チラシの受け取りが良くて、人数は少なかったが沢山受け取ってもらえたので、場所によってこんなに違うのかと思った。私ができることといえば、チラシを配ったり署名を集めたりするぐらいなので、これからもしっかり頑張っていきたいと思う。 

 ・福島さん

 最近の動きとしては、田辺先生が代表になって頑張ってこられた国連特別報告者の訪日調査を実現する会の活動がようやく陽の目をみた。京都訴訟はあと1年半くらいで決着することになりそうだ。原告は少し息切れ気味だけど、皆さんの支援のお蔭でここまで来れた。私たち一人ひとりの救済無くして全体の救済もないので、原告の本人尋問はやり遂げたい。3人の原告を申請し、私もその中に入るのでご支援を。 

 ・小林(雅)さん

 今日は裁判所の東門で街宣活動をした。わざわざ車を止めて署名をしてくれた方がいた。淀屋橋では冷たい反応が多かったが、こちらは人通りは少ないけど反応が良くて励みになった。大阪高裁に向かい、「まともな人だったら、最高裁みたいな判決は出しませんよね」と叫んでみた。

 最近東京の全国連の集まりに行って、びっくりすることがあった。いわき市民訴訟の方が言うには、避難者訴訟で東電が「最高裁が国に責任がないと言うんだから、東電も責任はない」と言い始めたとのこと。こんな調子こいてる奴に負けてられない。最高裁判決を覆して4訴訟の怨みを晴らしたいので、ぜひご協力を。

 ・菅野さん

 今日、最高裁判決について弁護団の先生たちが、何が問題か、何が間違っているか指摘してくれた。私たちが相手にしているのが東電という大きな会社、国という大きな組織。でも人が代わり、中身のないものと闘っているといつも感じている。私たちはそれぞれの生活や仕事を抱え、何年も闘っているが、逃げ場所がない。でもあの人たちは、今日も田辺先生の質問に対しても、「いつも逃げれるんだなあ」と感じた。だけど裁判というステージでは、決して逃がすことなく、ちゃんと向き合って欲しいと強く思った。

 ・明智(礼)さん

 京都の大学に行くことが決まった直後に原発事故が起きた。私の生まれ育った家は何百年も続く農家だが、農地も汚染されてしまって、家も私の代で終わるだろう。この重さをずっと抱えてきて、本来やりたかった勉強ではなく、自分の方向性も原発事故のことを勉強して、いま大学院生をやっている。でも沢山の人とつながることができて、今日も院生仲間や今度話をさせてもらう大学の先生も来てくださり、ありがたく思っている。私たちが声をあげることが、甲状腺がんを発症した人やウクライナの人たちともつながることになるのかなと思うので、頑張っていきたい。 

 ・齋藤さん

 避難してから避難者支援の仕事に関わってきた。福島県や京都府などから補助金を受けてやってきたが、福島県の補助金がバッサリ切られたため「なごみ」を辞めることになり、別の仕事に就くことになった。新たな仕事は事務で苦労しているが、同年代の人もいるので、頑張って取り組んでいる。

福島県は、本当に人なのかなということを平気でして来る。避難者は県民じゃないみたいな扱いで。  もう、この裁判しか闘う場がない。私は子どもにちゃんと言えてないが、裁判をしていることを誇りに思って頑張りたい。 


 ●特別報告者の訪日調査について

 ・田辺弁護士

 2018年にヒメネスダマリー国連特別報告者が日本政府に対して、訪日調査をしたいとリクエストした。政府が3年間放置したことが分かり、昨年8月に80以上の団体の賛同を得て、外務省に早く受けいれるよう求める要望書を出した。

 普通は国際NGOがやるんだけど、有志で「実現する会」を作り、市民活動で訪日調査を実現した。国会議員も動いてくれて、政府も逃げられなくなった。いろんな研究者にも協力してもらい、無事調査も終わり、「調査終了後のステートメント」も発表された。1月8日にその報告会をやる。

 ・守田敏也さん

 ステートメントは、「強制避難民」も「自主避難民」も等しく「国内避難民」であり差別してはいけないと書いている。また避難者は失業者が多い、離婚した人もいる、それなのに住宅から追い出すとは何事だ、ちゃんと保護しなさいと書いてくれた。僕がこだわっている「放射線副読本」についても、放射線被ばく影響を小さく見せていると指摘している。あれだけの短期間の聞き取り調査でこういう報告を出すのは大変な作業だったと思うが、避難者の思いが彼女を動かしたんだと思う。

 「武器としての国際人権」をもっと使って、私たちの権利を拡大していこう。
   
 ・園田さん(ZOOM)

 京都訴訟の皆さんの支援があって、私は過去何度も国連に足を運んでいる。国連人権理事会の活動には2つの柱があって、1つが特別報告者の特別手続きによる情報提供要請など、もう1つがUPR(定期的に国連加盟国について審査し、加盟国が被審査国に対して勧告を出す制度)。2017年には4か国(オーストリア、ポルトガル、ドイツ、メキシコ)から原発事故に関する対日勧告が出た。

 今回は11月30日に日本に対するプレセッションがあり、その一週間ジュネーブで各国の代表者に状況を伝えて、勧告を出してくれるよう要請してきた。その際、「私の後ろには何千人もの避難者、被害者がいることを感じてください」と訴えた。勧告は来年1月末に発表される。

             


 ●全国支援ネット 岸本紘男さん

最高裁のふざけた判決は、下級審にいろんな影響を与えている。7.13東電株主訴訟判決が出た時に、産経と読売は「地裁がなぜ最高裁と違う判決をするんだ」と批判した。典型的なのは新潟訴訟(控訴審)で、東京高裁の裁判官は「責任論はもういいですね。損害論だけやりましょう」と言った。

仙台では、女川原発の再稼働反対、子ども脱被ばく裁判、国賠訴訟の宮城、いわき市民、津島、南相馬などが集まって12月17日に仙台高裁の対応に抗議する決起集会を開くことになった。

 千葉2陣と東京1陣の高裁判決が出る来年秋頃が次の山場になるが、このあとになるかながわと京都にはぜひ頑張ってほしい。  


 そのあと、反原発新聞の末田さん、大学院生からあいさつを受けて集会を終えました。    

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●原告側プレゼンの要約  

 ● IAEAの安全指針における水密化(鈴木順子弁護士)

最高裁第二小法廷は、6月17日、福島原発事故に対する国賠訴訟において、国に対する請求を認めない判決を下した。

 判決はまず、福島原発事故以前の津波対策は、防潮堤、防波堤等の設置により敷地への海水の浸入を防止することを基本としていたとする。

 次に、防潮堤、防波堤等の設置だけでは対策として不十分との考え方が有力であったことはうかがわれないとした。

 しかし、これらの前提事情は誤りである。実際には、福島原発事故より以前に防潮堤だけでなく、防水(水密化)が必要である事は、IAEA(国際原子力機関)の安全基準文書において明記されており、国もそのことを認識していた。

 日本は1957年のIAEA発足時からの加盟国だが、IAEAの権限には原子力安全基準文書の作成が含まれている。

 IAEAが作成する安全基準文書は加盟国を法的には拘束しないが、かといってIAEAの安全基準に満たない原子力施設を放置してよい理由とはならない。原子力先進諸国においては、原子力安全条約履行の観点からも、同条約の手引き的存在であるIAEA国際基準を国内基準に可能な限り取り入れていく機運が生じている。

 それだけでなく、国は安全基準文書の策定過程に対応体制をきちんと講じていた。当時の通産省は、原子力発電技術顧問会「基準部会」の下に「国際基準検討WG」を設置していたし、国は安全基準について、直接的に関与できる体制となっていた。

 さて、このように策定される安全基準文書の中に、2003年12月に発刊された「海岸立地及び河川立地の原子力発電所の洪水ハザード」という安全指針がある。

 この安全指針の13・5節は、設計基準洪水からの防御の種類を2つあげている。1つは敷地が設計基準洪水のレベルよりも上という意味でのドライサイト。もう1つは恒久的な外部障壁で、これには防潮堤が含まれる。

 次の13・6節には、「サイトの洪水に対する冗長的対策(予備的対策の意。注を参照)」についてのガイドラインが明示されている。「極端な水文学(すいもんがく)的現象に対するプラントの保護は防水」と、防潮堤と同時に防水、つまり水密化を求めていた。

(注―「冗長」は「間延びしていて無駄が多いさま」を意味するが、システムの障害が発生した場合に備えて予備的装置を配置することを「冗長化」と呼ぶようになった)

 この安全指針は、2011年に新しい安全指針に取って代わられたが、冗長的対策についての規定内容は、本指針とほぼ同様である。そして、「基準案の作成と査読の協力者」のリストには、東京電力の「Sakai, T.」なる人物が記載されている。東京電力も、この冗長的対策としての水密化のガイドラインについては、十分に内容を認識していたといえる。

 結論。最高裁6月17日判決は、本件前提事情を欠くもので、結果として誤りだったが、それについて裁判所に責任があるわけではない。冗長的対策としての水密化のガイドラインについて、その策定過程に濃厚に関与し、内容を熟知して いた一審被告らが、ことさらに事実を隠し、虚偽と指弾されても致し方のない主張を繰り返したことこそ非難されるべきである。

          
 
 
 ● 最高裁結果回避可能性の判断について(森田基彦弁護士)

 最高裁は、①2008年に東京電力設計が行った推計結果(敷地南側で最大O.P.15.7m)を予見対象の津波と設定しつつも、②事故当時には防潮堤等の設置以外の方法(水密化、高所化)は検討されていなかった、 ③推計に基づく津波を防ぐための防潮堤は、実際に生じた津波を防ぎ得なかった として、結果回避可能性を否定した。つまり、「国はどう頑張っても今回の事故を防ぐことができなかった」と述べた。

 ②③についてその誤りを指摘する。

 ◆ 防潮堤以外の方法について

本当に、本件事故以前には防潮堤以外の浸水防止措置は検討されていなかったのか。最高裁の認定の反証となる事実を複数提示する。

 まず、日本原子力安全委員会 地震・地震動WG第7回会合(2003年3月20日)の資料。津波に対しては、止める、冷やす、閉じ込めることによって安全を確保すると指摘されている。ここで、非常用海水ポンプの機能確保の津波対策例として、強固な建屋・壁等の内側に設置する構造とすることが明示されている。すなわち、2003年時点で、水密化という技術は実施可能な程度に完成されていたといえる。

 次に、原子力発電安全審査課名義の「原子力発電所の津波対策について」(2005年1月18日)。ここで安全審査課は「現在行っている審査においては、津波による上昇水位が敷地レベルを上回らないこと」もしくは「敷地レベルを上回っても津波が安全上重要な設備に悪影響を及ぼさないように施設されているか」を確認するとしている。すなわち、溢水することを前提とした対策がなされているかを確認している。

 また、この資料の「対外応答要領」においては、「原子力発電所は、津波に対して安全が確保されるのか」との想定質問に対し、津波の上昇水位が敷地レベルを超える発電所については「建屋扉によって水の侵入を防ぐなどにより、安全上重要な機器への影響はないよう対応しております」と回答している。すなわち、調査の結果ドライサイトが維持できない発電所に対しては建屋扉の設置(水密化)をもって安全性を確認する扱いとしていることがわかる。

 中部電力浜岡原発において実施された水密化の例もある。

 中部電力は、原子炉建屋等の出入口に防水構造の防護扉を設置したほか、敷地に遡上した場合に備え、建屋やダクト等の開口部からの浸水対応を進めた。ポンプモータの水密化、ポンプ回りの防水壁設置、規制の水中ポンプによる代替取水などを検討していた。このような検討内容は、当然、安全保安院に対してレクチャーを行った上ですすめたものである。

 すなわち、敷地高を超える津波に対して、防潮堤以外の方法にて対策を行うことは、国も了承していた。

 東海第二原発では、延宝房総沖地震を想定した場合、敷地が2メートルから4メートル浸水し、海水ポンプ室が浸水する結果が示されていた。

 これに対して日本原電は、陸域については建屋付近の浸水を前提とした浸水防止対策を、海水ポンプ室については蓋、壁などを2010年度完了めどに実施する計画が執行された。

本件地震発生に際して、工事が完了していた南側では封水工事が完了していたためディーゼル発電機(DG)が喪失せずに済んだと解析されている。北側では工事が完了していなかったため、3台中1台のDGが喪失した。このように東海第二原発では、水密化工事の完成未完成が、重要機器の損傷の明暗を分けた。

 最高裁は、本件事故以前には、防潮堤以外の浸水防止措置が採用されていなかった旨認定しているが、防潮堤以外の方法論は実施されていたし技術的にも十分に可能であった。

 ◆ 設計される防潮堤について

 最高裁判決は「これらの事情に照らすと、本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、本件敷地の南東側からの海水の浸入を防ぐことに主眼を置いたものとなる可能性が高く、一定の裕度を有するように設計されるであろうことを考慮しても、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができるものにはならなかった可能性が高いといわざるを得ない。」と判示した。

 最高裁は、被告東電が作成した、高低 差をつけた防潮堤案を前提として認定を行ったものと考えられる。この案によれば、敷地前面はわずかO.P.12mの高さしかない。しかし、この防潮堤案を前提とすることは誤りである。

 まず、この防潮堤案は事故後である2016年7月22日に東電が作成したものだ。刑事事件において起訴を避けたいという動機がある中で、当事者によって作成されたものであり信用性はない。

次に、この防潮堤案は2008年の東電設計の津波高試算に基づくものだが、それは明治三陸沖地震の波源モデルを地図上にプロットして計算したものと考えられる。しかし、このプロットされた波源モデルを南北にあるいは西に数百メートルずらした場合にはどうなるか。代入値の変化によって結論が異なる可能性が否定できない。

最高裁判決には三浦裁判官の反対意見が付されている。 この反対意見は自然の不確定性に配慮した対応策を求めており、極めて合理的な内容であると評価することができる。

 以上の通り、最高裁の事実認定は、裕度に対する理解が不十分であると言わざるを得ない。

結果回避可能性については、「本件試算津波と同じ規模の津波による本件敷地の浸水を防ぐことができるものとして設計される防潮堤等は、一定の裕度を有するように設計されるであろうことを考慮すれば、本件津波の到来に伴って大量の海水が本件敷地に浸入することを防ぐことができた」と認定すべきだった。


●公正な判決を求める署名にご協力を

 裁判官への一言メッセージ集

 裁判官への一言メッセージを書いてもらうに当たって、これまでに集まってきた署名の中から、参考までにいくつかメッセージを紹介します。

           

◆原発事故後すでに11年過ぎましたが、福島はもとの福島に戻ることはおそらく不可能です。被災県福島の現実をしっかり直視し、公平、公正、正義に基づいた判決を願います。(福島県郡山市・Oさん)

◆原発は国が電力供給維持のために進めた政策であり、事故が起これば1社だけでは対処できないことははっきりしていたことです。避難者の方々は、大変な生活をしておられると思います。実態をよく把握していただいて、被害者の立場での判決を求めます。(福島県須賀川市・Yさん)

◆司法を志した原点に帰り、良心にのみ従って公正な判断をして下さい。何よりご自身のために、もちろん法の保護を必要とする人のためにも(京都市・Tさん) 

◆本件訴訟について、他人事ではなく自身や家族などの身の上に降りかかった理不尽な人災として考えていただければ、答えは自明のことと思います。皆様の良心に期待しています。(宇治市・Hさん)  

◆「万が一にも原発事故を起こさない」(伊方原発最高裁判決)立場に立てば、三浦反対意見のような結論しか出てこないはずです。屁理屈に陥ることなく、市民が納得する判決(判決は原告・被告だけのものではありません)をお願いします。(京田辺市・Oさん)  

◆放射線被ばくを避けたいと思うのは、すべての人の思いです。それゆえ、避難した人たちの命と生活を守るため、地球上のすべての人のこれからの命・生活を守るため、 後世に恥じない公正の判決を求めます。(豊中市・Nさん)  

◆原発を安全に運転する義務が東京電力にも国にもあった。にもかかわらず福島第一原発事故が起きた。国と東電はともに責任があることは明白であります。従って、裁判所におかれましては公正な判決を強く要請します。(郡山市・Iさん)  

◆原発賠償最高裁判決読みました。三浦裁判官の少数意見こそが論理的で説得性を持つと感じました。法と良心に基づき公正で説得性のある判決を出して下さい!(伊丹市・Sさん)  

◆6月17日の福島原発事故の国の責任はないとした最高裁判決にしばられず、公正な判決を出して下さい。(大阪市・Yさん)  

◆この10年間に亡くなられた原告さんもおられ、胸が痛いです。 生きておられても、苦労や困難が重なってきていること、一端ですが、お話を聞いています。 どうぞ、一人ひとりの話を聞いて、避難者の権利を認める判決を出してください。(大阪市・Kさん)  

◆もしこれが自分の家族だったらと思う気持ちで、しっかり現実を見て相手の話を聞き、理解してほしいのです。最後の最後迄、司法の良心を信じさせてください。(北九州市・Mさん)  

◆10年経っても事故収束の目途が聞けません。被害を受けた方々の訴えはとても他人事とは思えません。私にも子も孫もいます、次世代の者のためにも事故の原因と責任を明らかにするべきだと思います。裁判官の皆様、どうぞ、実状と実態に向き合って司法の力を発揮して下さい。お願いします。(北九州市・Nさん)  

◆原告の人々は、これまで一生懸命に生きてきた方々です。人が人らしく生きていけるように当たり前の権利を認めてください。(長崎県松浦市・Nさん) 

◆国が規制権限を行使しなかった責任をしっかり裁き、原告側の主張や証拠を踏まえた公正な判決をお願いします。(守口市・Oさん)  

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 原発賠償訴訟・京都原告団を支援する会
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