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★ 「原告と共に」No36 2021年7月発行 

● コンテンツ

  
●6月17日 控訴審第10回期日 開催

◆国の責任を否定(新潟訴訟判決)

 6月2日、原発避難者訴訟としては最大の原告数を誇る新潟訴訟の一審判決が出ました。判決は、国が2002年の段階で福島第1原発が津波で被災する可能性を把握していたと認める一方、大規模津波の具体的な危険性を裏付ける知見に乏しく「原発事故を防ぐことができたとは認められない」と述べ、国の責任を否定しました。

◆控訴審の結審近づく

 6月17日は、京都訴訟の控訴審第10回期日した。緊急事態宣言が続く中、今回は支援者の方にはオンライン模擬法廷への参加を呼びかけたので、原告が裁判所正門に到着した時点で待っていてくれた支援者はわずかでした。原告の入廷行進も行なわず、正門前で支援者も一緒に写真撮影し、敷地内に入りました。抽選には至らず、全員が法廷に入ることができました。

 法廷では、原告側が2つのプレゼン―①予見可能性をめぐって国の反論への再反論、②損害に関する東電の主張への反論を行ないました(要旨は2~3面に掲載)。

 次回は9月30日(木)、次々回は1216日(木)、時刻はいずれも1430分からとなりました。

 今回は、会場の関係やコロナの影響も考えて報告集会は行なわないことにしましたが、閉廷後、裁判所の向かいの公園でまとめの集会を持ちました。

  

弁護団事務局長の田辺弁護士から「原告の主張はあと2回では終わらない。3回はやることになるだろう」と、今後の裁判の進行の見通しが述べられました。原告団からは共同代表の萩原さんがお礼と引き続いての支援を訴えて、散会しました。

 オンライン模擬法廷には30数名が参加し、まとめ集会の様子もライブ中継されました。また、遠方に在住している原告さんが発言したり、他訴訟の支援者からの告知なども行なわれました。

 京都訴訟の控訴審も結審の時が近づいてきたようです。悔いの残らないよう最後までご支援のほど、お願いします。


●控訴審第10回期日プレゼン要旨

 原告側の2つのプレゼンの要旨を事務局の責任でまとめました。

◆予見可能性に関する再反論(森田基彦弁護士)

予見可能性に関する争点は、三陸沖北部から房総沖の海溝寄りを一体の領域とするか、南北で異なるかというもの。

 国は、○津波地震は特定の領域で発生する、○福島沖でM8地震の可能性は低い、○津波評価技術は当時の科学的知見を踏まえていることを理由として、三陸沖と福島県の海溝寄り領域を同一とする科学的知見は皆無であったと主張している。

 だが1980年頃から、日本海溝寄り領域では最大M8クラスの地震を想定する区分図が公表されていた。表俊一郎教授による「表(おもて)マップ」では日本海溝寄りでM8の地震を想定しており、活断層研究会(現在の一般社団法人・日本活断層学会)による活断層マップでは日本海溝寄りを一体とみている。

 国が南北に区分する主要な理由は、南北で海底の構造が異なる、堆積物(付加体)の形状が異なるというものだが、2002年には津波地震は付加体のある所でもない所でも発生していることが知られていた。津波地震の発生と付加体の有無は因果関係があるわけではない。

 国が主張の根拠として取り上げる佐竹健治教授も、津波地震については結局のところ「海溝沿いにはどこで起きるかわからない」と結論づけている。

 また、推進本部の海溝型分科会委員で気象研究所地震火山研究部長(当時)の濱田信生氏は、東電株主代表訴訟において、次のように証言した。

「海溝型分科会の委員は、三陸沖北部から房総沖の南北で海底地形が異なるという知識は有していた」「しかしながら、海底地形が津波地震の発生の有無に結びつくか否かについては議論しても意味がないと思っていたため、取り上げられなかった」「それが結びつくというのは学問的なアイデア、仮説であって、そのまま長期評価には採用できなかった」と。委員である地震学者たちの何名かは付加体の仮説を述べていたが、行政的な評価として採用できる程度には至っていなかったということだ。

電気事業者らの連絡会の議事録(2008年3月5日)でも、南北に分ける根拠となる「萩原区分」の裏付けを得られなかったと書かれている。南北に分けたいという強い動機があったにも拘らず、その根拠が見つからなかったのだ。

以上をまとめると、○津波地震を付加体により説明する学説は仮説にとどまる、○長期評価における議論でも、南北一体と捉える見解が有力な地震学者たちの最大公約数的見解であった。

次に、原告側の濱田意見書が引用している金森博雄・カリフォルニア工科大学教授の論文の主旨は、宮城県沖やその南の福島県沖・茨城県沖でも、沈み込む太平洋プレートに陸寄りの北米プレートがぴったりくっついており、ひずみは解放されずにどんどん蓄積されており、過去の地震のすべりにより解放されたのはそのうちの4分の1だけである、というもの。

そして解放されなかった4分の3は、「①GPS解析によって捉えられない非震性の滑りとして解消されるか、②最終的には、巨大地震、あるいは巨大津波地震、または巨大サイレント地震として解消される」として、この領域における巨大地震の発生を予期する内容になっている。この金森論文からも長期評価の合理性が裏付けられる。

最後に、日本原電およびJAEA(日本原子力研究開発機構)が長期評価に基づいて津波対策を行なっていたという原告の主張に対する国の反論への再反論を行なう。

国の反論は、原電とJAEAが行なった津波の試算は、「長期評価の見解に客観的かつ合理的根拠が伴うか否かを前提とせずに実施された」というもの。

関東以北の電気事業者らが2007年1219日に行なった情報連絡会の議事録には、JAEAは「推本は扱わなくてよい方向にしたいが、具体的に推本を否定する材料は現状ない」と述べたとあり、原電も「推本の扱いについては…社内的にも議論しているところであり、BC(バックチェック)で扱わざるを得ないという方向で進んでいる。…福島県沖・茨城県沖については推本で津波地震が発生する可能性が指摘されており、念のためこの知見を取り込むということも考えられる」と発言している。

 2008年7月23日の議事録では、原電は「推本の『領域内でどこでも発生する可能性がある』という考え方は取り入れるとしても、三陸沖モデルを動かすのではなく、房総沖モデルを動かすシナリオで(有識者に)相談する」と述べ、JAEAは「推本モデルの結果に対して、建屋ごとに防潮壁で囲う、防水扉に変更する等の対策を検討している」と述べている。

 原電とJAEAは長期評価の合理性を認め、採用した(否定できなかった)ということができる。また、この検討は耐震バックチェックを契機としてなされたものであり、自主的な取り組みとは言えない。


◆損害に対する東電の主張への反論(和田浩弁護士)

 東電は、原告が主張する精神的損害はもっぱら放射線作用に対する主観的な「不安感」に基づくものとし、複数の裁判例を引用して、「法律上保護される利益」に対する違法な侵害が認められるためには、「社会通念上受忍すべき限度を超えた」侵害である必要がある(受忍限度論)と主張する。

 まず原告らの権利は「包括的生活利益としての平穏生活権」(生存権、身体的・精神的人格権、財産権が包摂される)であり、主観的な「不安感」とは異なる。

 不法行為法における受忍限度判断は、加害者側の権利・自由と被害者側の権利・自由を調整するために用いられる原理である。加害行為自体が加害者側の権利・自由の埒外である場合には、受忍限度判断は用いられない。本件における東電の加害行為は原発事故を発生させたことであり、これが東電の権利・自由の埒外であることは明らか。本件において、受忍限度判断が採用されるべきではない。

 東電が引用する大阪国際空港事件上告審判決は、社会にとって公共性・公益性のある大阪国際空港の正常な運用・供用等により生じた被害が問題となったもの。

 東電があげる受忍限度判断が採用された判例・裁判例と本件とはまったく事案が異なっている。

 そもそも本件は、加害者側の権利・自由と被害者側の権利・自由の調整が必要になる事案ではないため、受忍限度判断は用いられるべきではない。

 東電はまた、過去の生活妨害の裁判例と対比して、自主賠償基準を超える損害がないと主張している。本件事故による被侵害権利は、包括的生活利益としての平穏生活権および人格発達権であり、東電が引用する判例・裁判例における権利侵害実態とは異なり、かつ、その精神的苦痛は格段に大きい。

 東電は、自主的避難等対象区域を含む避難指示区域外においては、「法律上保護される利益」に対する違法な侵害があったとは認められないと主張する。

 具体的には、年間積算線量が20ミリシーベルト相当値に達していないこと、年間積算線量100ミリシーベルト以下の被ばく線量であれば健康への影響は認められないこと、年間積算線量20ミリシーベルト以下の被ばく線量であれば、発がんリスクは実質的に無視し得ることを理由に「同区域における放射線の作用による侵害の程度は極めて低い」と結論づける。

 しかし、年20ミリシーベルトという参考レベルは、ICRP2007年勧告に基づく緊急時被ばく状況の下限、現存被ばく状況における上限だが、いずれも「最適化」という観点から設定されたもの。ICRPは、その成立経緯に照らせば、純粋に学術的立場に立つのではなく政治的存在である。ICRPにおける放射線防護の考え方は、純粋に人の生命、健康という観点ではなく、社会的・経済的要因を優先している。

 また参考レベルは、放射線量を低下させるため、あくまで行政や原子力事業者を名宛て人として設定されたものであり、地域住民が甘受すべきものとして勧告されたものではない。

 東電の主張を文字通り読めば、年間積算線量100ミリシーベルトが継続しても健康影響がないかのように理解されるが、毎年100ミリシーベルトを被ばくした場合に健康影響が出るということに科学的争いはない。

LNTモデルは被ばくによる人体への影響にはしきい値がない、つまりわずかな追加的被ばくであっても回避されるべきことを大前提としている。公衆の被ばく限度(年間1ミリシーベルト)でさえ「容認」しても良いとする趣旨にすぎず、安全の基準ではない。東電の主張は、人の健康に対する傲慢な企業体質を如実に示しており、強い非難に値する。

 東電は、自主的避難等対象区域の居住者であった原告らには賠償すべき損害が生じたとは認められないと主張する。

 これは、①原賠審の示した中間指針追補等に反しており、②中間指針追補が賠償の範囲としなかった県南地域についても賠償に応じてきたという先行行為にも反している。

 他方、東電は原子力損害賠償・廃炉等支援機構に資金援助の申請を行ない、これによって得られた資金に基づいて賠償を行なっている。そこで、東電は申請の際、自主的避難等対象区域および県南の住民らへの支払いに要する資金を控除して要賠償額を算定したのか否かを明らかにすべきだ。


●第9回学習講演会開く

「一連の高裁判決(生業・群馬・千葉)を受けて、大阪高裁での闘いの展望について」 

◆田辺保雄弁護士(弁護団事務局長)

 *弁護団報告はこちら

 4月25日に支援する会主催で、第9回学習講演会&第7回支援する会総会が開催され、オンラインで48名の参加がありました。学習講演会では京都訴訟弁護団の田辺事務局長が、「一連の高裁判決(生業・群馬・千葉)を受けて、大阪高裁での闘いの展望について」と題して講演されました。講演は多岐にわたりましたが、国の責任を否定した群馬訴訟・東京高裁判決の批判に重点があったので、その部分と京都訴訟控訴審(大阪高裁)の今後の進行に絞ってその要約を報告します。

文責:支援する会事務局)

◎東京高裁判決の問題点

 ここで、群馬訴訟・東京高裁判決の判示事項を見ていきたい。

まず適合命令を発令するのに必要な要件に関連して、技術基準適合命令に関する「考慮事項」として、「被害の重大性及び切迫性…規制権限行使における専門性、裁量性などの諸事情」と言っている。この中に「切迫性」「裁量性」という言葉が入っていることが非常に問題だと思う。

 「切迫性」を発令の要件の中に持ってきているのは、要件に適合するかどうか(要件裁量)という問題と、要件がある場合に実際、どのように規制権限を行使するかどうか(効果裁量)という問題を混同しているのではないか。

40年間稼働する原発にとって30年間に20%の確率で来る津波は「切迫性」と言えないのかどうなのか。それと、「切迫性」は本来効果裁量の問題ではないのか。実際に来るかも知れないという要件を考える場合に「切迫性」を入れる必要が論理的にあるのかどうか、という点に疑問がある。

 それから「裁量性」だが、前提事実の認識について裁量のようなものを認めていいのかという点も問題だと思う。

「行政に裁量がある」というのは、裁判官は判断に立ち入らないということを意味している。職員が不祥事を起こした場合の懲戒処分などは、もともと行政の長の裁量に任されており、過去の事例やその不祥事によって行政が受けた影響の度合いなど裁判所が知り得ないことが多いため、裁判所は判断しないというのはわかる。

だが、津波が来るか来ないかについて裁判所が認識し得ないというのはおかしい。発令の要件について裁判所が立ち入れない(行政の裁量に任せる)事情は存在しない。逆に適合命令をどんな風に出すのか、運転を止めろと言うのか、止めずに対策しろと言うのかという効果裁量の部分については、裁判所が行政の裁量を認める余地は若干はあるのではないかと考えている。以上のように、発令要件に「切迫性」や「裁量性」を持ち出し、行政の判断を尊重するというのはおかしいと思う。

このあたりの法律的な整理は、まだ弁護団としても固まっているわけではない。

 さらに予見可能性について、判決は「科学的知見が規制権限の行使を正当化するだけの客観的かつ合理的な根拠に裏付けられていることが必要」「何ら根拠を伴わない科学的知見や、矛盾する科学的根拠のみが示され、その正当性を裏付ける根拠が示されていない科学的知見だけ」ではダメだと言っている。国は最近、こういうことをしきりに強調しているが、それをそのまま受け入れたような内容になっている。

 判決は続けて「少なくとも、…さまざまな分野の専門家の検証に耐えうる程度の客観的かつ合理的根拠が伴っていなければならない」と言っている。これは、学問的に完全に一致して異論が出ないようなものでなければ、規制権限の考慮事項にしてはならないということだ。これには、2つの疑問点が出てくる。

 ①確立した知見を求めているが、そもそも津波領域において、そのような知見は成立しうるのか。津波は極めて重大な被害をもたらすが、まれにしか起こらない。東日本大震災がもし貞観津波の再来だとすれば、1千年以上の間隔をおいてやってきている。それより前の津波であれば歴史記録もないわけで、推論するしかない。そういう場合、推論したものを根拠にしてはいけないのかということが問題になる。

 ②地震本部の長期評価を全く無視しているが、無視するだけの理由があるのか。保安院が当時長期評価について真摯に検討したという事実はない。保安院の担当者が東電の担当者に「おい、大丈夫なのか」と個人的レベルで問い合わせて、東電の担当者が「なになに先生に訊いたら、異論も多いようですから」と言って寄こした。それだけの事実で、地震本部が正式に公表した長期評価を無視していいものなのかという根本的疑問が湧く。

 東京高裁は津波評価技術について、「当時確立し実用として使用するのに疑点のない」津波評価技術によれば、「主要建屋の敷地高を超える津波は想定されなかった」と言っている。「疑点のない」というのがおかしな表現だと感じる。これについては、以下の問題があると思う。

 科学と技術の微妙な関係を無視している、「最新の科学技術水準」の理解がこれで良いのか、この2つは一橋大学の下山憲治先生も仰っている。

 東京高裁がこういう判断をした1つの理由としては、長期評価は長いスパンでの想定をしているが、福島県沖で過去にこういう津波地震があったという記録はないということがある。三陸沖や房総沖で起きた地震を考えた時に、地質の構造が北から南まで同じであることを理学的に評価して、長期評価はどこの場所でも津波地震が来る確率が「30年間に20%」あるとした。これが「最新の科学技術水準」の知見だ。

 残念ながら、地震本部が評価した時に、福島県沖での地震はなかったのでエビデンス(証拠、根拠)レベルとしては「C」という評価をした。このことを捉えて、エビデンスのないものを考慮するのはおかしいと東京高裁は考えたわけだが、これは理学的メカニズムに基づいて推論した結果を全く無視している。

 地震本部は阪神淡路大震災を踏まえて、将来の災害を予見して被害を小さくするという政策目的で設置されたものなので、地震本部が公表した予見を全く無視するというのは本来の政策目的からしてもおかしい。

 さらに、土木学会が電力会社、電力中央研究所に所属する委員が大半であるという問題。津波がどの高さで来るかということは規制と直結する問題だ。規制を受ける側の人が前提事実を審議している、これはおかしな話だと思う。土木学会と名乗っているので、信頼できると裁判所は思ってしまうが、いわば電力会社の丸抱えの団体であり、利益相反ということからすれば、このような団体がこのようなことを審議して良かったのかという点はきっちり検討して頂くべきだと思う。

 その上で、判決は長期評価について「メカニズム的に否定できないという以上の理学的根拠を示しておらず…長期評価の見解は理学的に否定できないという位置づけのものにすぎない」と言っているが、だからといって採用しなくてもいいかといえばそうではない。また、「長期評価の見解が科学的コンセンサスを得られていなかった」旨の意見書があることを理由に「種々の異論や信頼性に疑義を生じさせる事情が存在していた」と述べているが、この辺りは証拠評価の問題だと思う。

 いま意見書があるのは間違いないが、当時本当にそこまで疑問が差し挟まれていたのかどうかは別だ。長期評価はいまでも改訂されて、公表され続けている。そんな意味のないものを地震本部は出し続けていると裁判所が言える根拠はどこにあるのか。

 さらに判決は、命令発出要件が充足されたとして「直ちに対策の実施を求める規制権限の行使を義務付けるだけの科学的、専門技術的な見地からの合理性を有する知見であったと認めることは困難」としている。要するに、信用性が低いと言っている。

 ここで確認しておきたいのは、地震本部の組織上の位置づけ、メンバー構成、検討過程等についての具体的評価がなされないまま、ふわっとした形で長期評価を信用性の低いものと考えていることだ。法律に基づいて設置されており、土木学会などよりよほどきちんとした位置づけがある。メンバー的にも地震本部の方が多様な、最高水準の研究者を集めていた。そういうことが高裁判決には出ていない。証拠をあえて見ていない。そこに触れると、土木学会の信用性はおのずと低くなってしまうからだ。

異論があることは理学的分野では不可避で自然なことで、実は千葉訴訟の東京高裁判決にはそういうことが書かれている。これも千葉訴訟の高裁判決がはっきり言っていることだが、科学的信頼性において、長期評価が津波評価技術より優位とは言えないまでも同等ではないのか、ということ。そういう観点が一切ないことが問題だ。

◎大阪高裁での訴訟進行について 

 前の部長(裁判長)が定年退官されて、部長が交代した。新裁判長から1審原告に対して主張立証計画を提出するように指示があった。2018年3月に1審判決があってから丸3年高裁でやっているわけで高裁での審理が長く続いている。すでに3月に計画を提出済みだが、次回の6月期日を含め4回程度で主張を終える予定だ。だいたい3か月の期間でやっているので、あと1年(来年3月頃まで)かなと考えている。

 ポイントが3つある。①この間、被害の実態を裁判所にわかってもらおうということで、被害の掘り起こしをやってきた。その中で、PTSDの問題も浮き彫りになってきている。研究者の総論的な報告書は出しているが、実際もこうなんだということをわかってもらうために、若干名でいいので原告本人尋問をやった方がいいんじゃないかと考えている。

②京都訴訟では各自が被った損害をそれぞれ個別に請求するというスタンスをとっている。生業訴訟は、共通損害のみを求め、個別の損害立証はしないという立場。前橋訴訟は個別にやっておられるが、求めるのは慰謝料だけというやり方。京都訴訟は財産的損害も精神的損害も個別費目として挙げて請求している。これを補充していかないといけない。具体的には、世帯毎の個別の陳述書を作成して、提出したい。原審で足りなかったところ、特に被害実態、これは全世帯についてやりたいと考えている。9月の期日に出せるようにこの夏にはかかりたい。

③竹沢先生から、原告の陳述書をまとめた報告書、意見書、それからPTSDについての意見書を書いてもらったので、中身を裁判所にわかってもらうために、竹沢先生の証人尋問もやりたいと考えている。

 あと同種事件の流れについて報告しておきたい。現在も地裁レベルで判決が続いている状況。国への勝訴案件もあるが、必ずしも良い内容とは言えないものもある。高裁レベルでは、3月に結審されたえひめ訴訟の高松高裁では、9月29日に判決期日の指定がされた。その次は、かながわ訴訟の控訴審(東京高裁)か京都訴訟(大阪高裁)の判決が出るだろうと思っている。東京高裁や大阪高裁という大きな高裁での判決は国に与える影響も大きいので、かながわと京都の高裁判決を見て、最高裁は最終的な判断をしていくのではないかと考えている。一部では、最高裁はもっと早く判決を出すんじゃないかと言われているが、東京と大阪の2つの高裁判決の結果を待たずに最高裁が判断することはないんじゃないかと思っている。


●支援する会第7回総会開く

 4月25日に、支援する会第7回総会がオンラインで開かれ、スタッフを含め38名の参加がありました。

 奥森事務局長からまず2020年度の活動について報告があり、そのあと2021年度活動方針と役員体制について提案がありました。新たな活動として、先行する訴訟(①いわき避難者、②群馬・生業・千葉)の「最高裁への公正判決要請署名」に支援する会としても取り組むこと、国連特別報告者セシリアさんの来日調査実現に向けNGO、市民団体と共同して政府への要請活動に取り組むことが提起され、全体として承認されました。

 役員については、共同代表、事務局長、事務局次長は従来通りですが、事務局スタッフに新たに2名が加わりました。

 *詳しくは、こちらをご覧ください。

 そのあと会計担当の上野事務局次長から、2020年度決算および2021年度予算について提案がありました。昨年度はコロナ下で活動が制限されることが見込まれる中で緊縮予算を組みましたが、年会費、カンパも予算を上回る一方で、原告の関連訴訟応援や近畿訴訟団交流会もできず、チラシもほとんど作成しなかったことから支出が大幅に減り、例年の約3倍の64万円近い残金が生じました。

 結審まであと1年、その半年後には判決という日程が見込まれる中、残金すべてを今年度予算に組み入れるのではなく、40万円を判決時に遠方から参加する原告の交通費・宿泊費に充てるため、特別会計を作り積み立てることにしました。

*詳しくは、こちらをご覧ください。


●原告だより

◎原告団総会開催

 6月27日に第8回目となる原告団の総会をオンラインで開催しました。今回は、個別立証も控えていることから、多くの方に参加してもらいたいと考え、原告各世帯にハガキで案内を出したほか、個別に電話連絡を行いました。

通常は、メールでいろいろな案内を流しているのですが、中には見過ごしてしまう方もいるのではないかということでの取り組みです。個別に電話やメールをすることも簡単ではありませんでしたが、今回の総会は19名の参加があり、久しぶりに賑やかな総会となりました。

 

始めに、原告団共同代表の萩原ゆきみさんの挨拶、続いて福島敦子さんから原発賠償訴訟を取り巻く状況として全国連やひだんれんの状況などについての説明がありました。

次に、弁護団事務局長の田辺保雄弁護士から大阪高裁に移ってからの裁判の経過や今後の見通しなどについて説明があり、原告自身に関わることとして、世帯ごとの補充陳述書が必要であることが強調されました。

参加した原告からも活発な意見や質問があり、「今さら陳述なんてしなくてもと思っていたけど、皆の話を聞いてやらないといけないと思った」という原告さんもおられました。

 原告同志で話をすると、あれもこれもと思い出すことも多く、話が尽きないくらいに盛り上がるため、個別立証に向けて近日中にオンラインで話し合う場を設けることとし、終了しました。

また、今年度の原告団の主な取組としては、公害総行動へ参加、また、判決に向けた署名のプロジェクトチームを作ることを確認し、進めていくことが決まりました。

今後の裁判の見通しの中で、原告側の主張はあと3回で終わるかもしれないという具体的な話もあり、参加した原告らは気が引き締まったようです。

補充陳述書や署名の取組みなど、残された時間でできることを悔いのないよう精一杯行って、判決に向けて頑張りたいと思います。  

どうぞ、今後ともご支援くださいますよう、よろしくお願いいたします。

(原告団共同代表 堀江みゆき)


◎個別立証に向けて思うこと

 事務局会議では「これから裁判は重大な局面になる。個々の原告の力量が問われる。」という事を感じていました。  

私は今回の総会の開催にあたり、参加を呼び掛ける電話やメールを繋がっている原告さんへしました。なぜなら、夏休み位に追加の陳述書を作成することもあり、大事な総会になると思ったからです。

総会の様子から今後の重要点は「事前に追加で書きたい事は何なのかメモしておく。弁護士さんによる聴き取りのみで書かれるよりも、自分の言葉で書く方が、皆さんの心情が裁判官に伝わりやすい。皆で話しを聴き合う事で書き漏れを防ぐ事が出来る。担当弁護士さんから追加の陳述書の件で連絡がなかなか来ない方は自分から連絡を入れた方が良い。」ということ事が分かりました。

月日が経つうちに、事情が変わったり、追加の被害に気が付いたりすることもあります。また、一人では考えたり、思い出したりする余裕が無くても、皆のお話しを聴いている内に、思い出す事もあるかもしれません。事前に準備したほうが良いことをしっかりして進めるようにしたいですね。

地裁での判決に満足されている方はおられないと思いますが、全国的に見ても原告団の連携が強い訴訟団は他の訴訟団に比べて判決内容が良くなっています。皆さん個人の気付きや、裁判への力の入れ具合が個々の判決を大きく左右していくと思われます。

 京都訴訟での判決が全国の訴訟団の見本となり、判決の底上げになっていくでしょう!繋がっていきましょうね。

(原告団共同代表 萩原ゆきみ)


  ◎鈴木絹江さんのご冥福をお祈りいたします

5月15日に原告の鈴木絹江さんが永眠されました。すでに京都新聞や支援する会のMLでも萩原ゆきみさんよりお知らせがありましたが、ご報告いたします。

絹江さんは、病気で心身共に苦しいこともあったと思いますが、それでもユーモアを忘れず、周りの方々に気を配ることを忘れない、とてもチャーミングな方でした。

2014年4月25日の第2次提訴(京都地裁)では意見陳述をされました。障害のある人や病人の災害時の避難の大変さや新しい生活の確保の難しさを陳述されただけでなく、「原発事故を起こした人が謝罪し、責任を取り、償い、二度と起こさないことを約束するのが人の道として当たり前だ」と訴えました。(会報2号参照 )

以下、夫の匡さんの言葉を一部ご紹介いたします。

「自然療法や食事療法を選び、手を尽くしたので本人も私も後悔はありません。亡くなる直前に痛み止めをして、それを切っ掛けに眠る時間が長くなり、食欲が無くなり、最後は眠るように亡くなりました。アッパレな人生でした。不自由な身体からとき離れて自由になりました。良い最後でした。」

ここに生前の絹江さんの活動に感謝すると共に心よりご冥福をお祈り申しあげます。

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